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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

日本の方向転換を意味する安倍首相の賃上げ要請

経済記事ピックアップ アベノミクス

上の二つの記事では、日本経済の長期停滞と1990年代末からのデフレが、過度の円高→輸出競争力低下→雇用者報酬減少→内需減少→デフレ→…、というプロセスで生じていることを説明しました。だとすれば、デフレ脱却のプロセスは、円高是正→輸出競争力回復→雇用者報酬増加→内需増加→デフレ脱却、となるはずです。

(円高是正の方法論については、外人の唱えるデフレ脱却策を黙殺してきた日本で説明)

しかし、これは円高を是正しさえすればデフレ不況が終焉することを意味しません。デフレ不況を確実に終わらせるポイントはGDPの6割を占める民間最終消費を持続的に増加させることですが、そのためには、輸出競争力が回復した企業が業績拡大に応じて賃上げすることが必要になります(所得が増えなければ消費は増やせません)。円高是正は政府と日銀がやる気になればいつでも可能ですが、賃上げは政府が企業に命令できることではないため、デフレ脱却が確実とは言えないのです(デフレから脱却できても、賃金は上がらず、実質賃金が低下することもあり得ます)。

2002年1月から2008年2月までの史上最長の景気拡大期(※1)に起こっていたのが、このバッドシナリオです。2003~04年に、財務省と日銀は協調して35兆円の円売り介入と量的緩和を行い、1ドル=100円割れの円高阻止に成功しました。その後、海外の好景気・高金利によって円安が進み、企業業績は一気に好転しましたが、業績回復の恩恵が賃上げとして労働者に還元されることはありませんでした。

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この時に賃上げが行われなかった理由は二つ考えられます。

  1. 企業が円安とそれによる業績拡大を一時的なものと予想していた。
  2. 株主至上主義の蔓延により、従業員への利益還元を不要と考える経営者が増えていた。

前回記事(「採算為替レート=適正為替レート」という錯覚)のグラフ が1.を裏付けます。2005~07年の円安期にも企業の採算為替レートはわずかしか変化していませんが、これは、企業が以前の円高水準に高確率で逆戻りすることを予想していたことを示唆しています。円安景気はもうじき終わり、再び厳しい環境が来るのだから、賃上げをする余裕はない、と企業経営者が判断したとしても仕方がありません(実際、2008年のリーマンショック後は予想を超える落ち込みが襲いました)。このことから、政府・日銀が、二度と1ドル=80円のような円高は起きないと企業に確信させることがデフレ脱却の重要ポイント、という教訓が得られます。

2.に関しては別の機会に詳しく書くつもりですが、税制などのインセンティブだけでは賃上げには力不足であり、賃上げを当然とする「空気」を作らなければならない、と考えます。一時はもてはやされた米英型の株主重視経営ですが、その実態は格差を拡大させる強欲資本主義に過ぎない、という批判が米英でも起こっているのは周知の事実です。「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」(※2)という思想が、消費拡大ひいては日本経済の本格的回復の妨げになったことも教訓でしょう。

喜ばしいのは、アベノミクスがこの教訓を踏まえていることです。 2月5日の経済財政諮問会議で、安倍総理大臣は「雇用と所得の増大につなげるためには、政府、産業界、労働界がこれまでの発想の次元を超えて、大局的観点から、一致協力して課題解決に動き出すことが必要」「業績が改善している企業には、報酬の引上げ等を通じて所得の増加につながるよう御協力をお願いしていく」と発言しました(甘利内閣府特命担当大臣記者会見要旨)。「株主重視」に振れ過ぎた振り子を「雇用重視」の方向に戻すことが、日本全体にとっては有益、ということでしょう。行き過ぎた株主重視経営を転換し、「雇用の安心」を復活させることは、格差問題や不確実性の高まりが深刻化する日本の経済社会を正常化に向かわせる重要なステップになると思われます。

ところで、民主党政権が同じことを言えば「政府の越権行為」と批判されていたのではないでしょうか。やはり、円安・株高が安倍首相に説得力を持たせているのでしょうか。

 

(※1)景気基準日付(内閣府経済社会総合研究所)

(※2)『失われた〈20年〉』 

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉