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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

ジャレド・ダイアモンド著『文明崩壊』に異論

政治・歴史・社会

『文明崩壊』は、アメリカの生物地理学者ジャレド・ダイアモンドが世界的ベストセラーとなったピューリッツァー賞受賞作『銃・病原菌・鉄』に続いて著した本です。この本は、イースター島やマヤなど繁栄後に崩壊した社会に共通する要因に、環境破壊や環境変化への適応失敗があることを抽出しており、『銃・病原菌・鉄』と同様、読み応えがあります。

中でも多くのページが割かれているのが、中世温暖期のグリーンランドに10世紀末から15世紀半ばまで存在したノルウェー人(ヴァイキング)入植地です。入植地からノルウェー人がいなくなったことははっきり分かっているのですが、その詳細は謎とされていました。そこで、ダイアモンドは「その終焉に推測で肉付けをしたいという誘惑に抵抗できない」として、飢餓が引き金となって社会秩序が突発的に崩壊し、家畜を食べ尽くした挙句に飢えて全滅した、という仮説を提示しています。

ところが、最近、この仮説を否定する研究が発表されました。

www.spiegel.de

この記事によると、ノルウェー人たちはダイアモンドが描くように環境への適応力を欠いて絶滅したわけではなく、ノルウェーイヌイットと化してまでグリーンランドで暮らすよりも、アイスランドスカンジナビアに引き上げることを選んだだけ、ということのようです。生活が困難になった山奥の過疎集落の住民が計画的に都会に引っ越すようなものです(若者が先に出ていき、老人が残されていたというのも現代と同じです)。確かに、イースター島のように外洋航海能力が失われたり外界との交流が絶たれていたわけではないのに、餓死の危険を冒してまでグリーンランドに居残り続けるほどノルウェー人が愚かだったと考える方が無理があります。ダイアモンドは"political correctness"的にヨーロッパ文明の失敗例をどうしても挙げたかったのでしょうが、そのバイアスのために想像力を膨らませ過ぎたようです。

グリーランドのノルウェー人からダイアモンドとは別の教訓を得るとするなら、生活困難な場所に無理に住み続けるな、という至極当たり前のことでしょう。高齢化・人口減少が進む今後の日本では、過疎集落の計画的撤収・移転が重要な政策課題になることは間違いありません。

この教訓に反したことがソビエト連邦崩壊の一因、というこれまた興味深い研究についてはソ連を滅ぼした『シベリアの呪い』】をどうぞ。

totb.hatenablog.com

追記1

バイキングの無敵の剣Ulfberhtに関する新説。

www.dailymail.co.uk

追記2

ダイアモンドが推測したように、農業や牧畜に固執した挙句に突如全滅したのではなく、農地の集約や海産物シフトなどで生き残り続けたという最新の研究の紹介記事。

sciencenordic.com

余談

パプアニューギニア人がダイアモンドの新著に抗議声明を出しています。

www.survivalinternational.org

The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?

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文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

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文明崩壊 下: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

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