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医師が増えると国が傾く

外国に負けない軍事力を整備するにはどうすればよいでしょうか。軍事技術の高度化・新兵器開発というのが常識的な答えでしょう(戦車、航空機、核兵器、ミサイル、情報通信システム、etc…)。ならば、有能な人材は技術開発に優先的に投入されるはずです(例:マンハッタン計画)。間違っても、軍医養成が最優先されることはないでしょう。

では、国の経済力を高めるにはどうすればよいでしょうか。生活水準の上昇は、主に製造業分野での技術の高度化によるものなので、軍事力と同じように考えれば、有能な人材を製造業等の技術開発・研究分野に誘導することになるはずです。間違っても、誘導先は臨床医にはなりません。

とはいえ、職業選択が自由な国では、労働市場の環境を適切に整えておかなければ、このような理想的な人材配置は実現できません。それに失敗しているのが韓国です。

韓国では、21世紀に入ってから、医師ブームが起こっています。ハジュン・チャン著『世界経済を破綻させる23の嘘』の「第21の嘘」によると、

2003年におこなわれた調査によると、理系の「最優秀・大学受験生」(トップ2%以内の者)のほぼ5人に4人が医学部進学を望んでいた。また、ここ数年間の非公式データでは、韓国の27の医学部中、最も入りやすいところでも、最難関の工学部よりも合格するのが難しかった。

ということです。

この医師ブームの原因は、1997年の通貨危機後に推し進められた雇用の不安定化です。たとえサムスンなどの超一流企業に就職しても、40代になると退職に追い込まれる可能性が高いため、優秀な若者は失業の恐れのない医師を目指すようになったのです。

韓国の理系の最も優秀な若者の80%が、医師に向いているなんてありえない、と思う。したがって、自由度では富裕国のなかで最高クラスの韓国の労働市場は、才能を最も効率よく社会に配分するということに見事に失敗している。なぜか? それは雇用の不安定化が強まったせいである。

というのがチャンの見方です。現在は絶好調のサムスンも、10年後・20年後は危ういということでしょう(技術を国外調達するつもりかもしれませんが)。雇用の不安定化は、韓国を幸福度の低い社会に変容させてしまいました。

世界経済を破綻させる23の嘘

世界経済を破綻させる23の嘘

www.guardian.co.uk

問題は、程度の差はあれ、日本も韓国と同じ方向に向かっていることです。

www.news-postseven.com

1998年以降、雇用の“流動化”(“不安定化”のニュースピーク版)を正当化するために、「正規雇用者がぬるま湯につかっているために日本経済が停滞している」「雇用を流動化すれば労働者はもっと努力するようになる」と叫ばれるようになりました。しかし、リスクが大きくなり過ぎると回避しようとする人が増えるため、経済社会全体では技術革新に不可欠のリスクテイクが減少してしまいます。生産性を上昇させなければ、労働力減少のために所得水準低下が避けられない日本にとって、これは深刻な問題です。

そもそも、人を不安や恐怖で駆動するシステムは長続きしないことは、歴史が証明しているのですが。

[補足]

iPS細胞研究は「製造業等の技術開発・研究分野」に含まれます。

 「研究者を“憧れの職業”に」、ノーベル賞山中伸弥・京都大学教授日経ビジネスオンライン