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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

「人件費の変動費化」が日本経済悪化の一因

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誤診に基づいて治療 すれば症状が悪化して当然ですが、経済政策についても同じことが言えます。日本経済の「失われた20年」の根本原因は過度の円高が継続したことなのですが、日本人がそれを認識できなかったため、見当違いの診断と治療が施され、かえって「病気」をこじらせてしまいました。 

誤診した医師に相当するのが経営コンサルタント証券アナリストで、誤った治療の一つが 人件費の変動費化です。

人件費がもともと固定費だったのは、それが経済合理的だからです。雇用者報酬が固定的で企業(経営者)の利益が変動的である理由は、小島寛之著『数学的思考の技術』第2章で分かり易く説明されています(リスク中立的とは、リスクを無視して期待値のみで判断すること)。

社員は一般にあまり資産の蓄えが多くはないため所得が大きく変動すると生活がなり立たなくなる。(中略)だから、多少割を食うとしても、安定した収入を望む。他方、経営者は一般に資産を十分に持っているので収入の変動に強いから、リスク中立的にふるまうと考えられるのである。 

企業がリスクを引き受けて労働者の所得変動リスクを小さくすることは、マクロ経済的にも意義があります。経済に占める割合は最大だがリスクには脆弱な家計のリスクを小さくすることが、経済全体の安定に有効だからです。リスクに強い順に政府・企業・家計(個人)となるので、政府は最大級のリスク=為替レート変動などマクロ的なショック、企業は景気循環における利益変動を引き受けて、最もリスクに弱い家計を所得変動から守ります。

家計所得が安定⇒GDPの6割を占める家計消費が安定⇒経済全体が安定(変動幅が縮小)

ということです。

ところが、企業の対応限度を超えるマクロ経済的ショックである過度の円高を政府・日銀が放置したため、企業はそれを賃下げ・雇用の不安定化という形で労働者に転嫁しました。本来であれば、企業に助言する立場の経営コンサルタントや証券アナリストは、「企業を円高リスク、労働者を賃下げから守るために、政府・日銀が出動すべき」と主張するべきでした(※1)。しかし、実際に彼らが主張したのは、日本経済を不安定化する代わりに彼ら自身の飯の種になる「人件費の変動費化」でした。その結果、家計消費は抑制され、経済全体の回復力・推進力も失われてしまいました。 

マクロの問題をミクロ的に解決しようというのは、「不可能を可能に」しようということに等しく、根本的に無理があります。この無理を通したために経済の衰退が加速したことへの猛反省が必要です。

 

(※1)このことを認識していた数少ない1人が日産自動車のゴーン社長です。ゴーン社長が政府に円高是正を訴え続けたことは、 「外人の唱えるデフレ脱却策を黙殺してきた日本」で紹介しました。以下、ゴーン社長の言葉の引用です。

首相には「あれも、これも」と色々なことをお願いするのではなく1点だけ政府の対応をお願いしました。それはすなわち、円高です。それ以外は企業が自力で対応すると申し上げました

 

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