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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

TPPとアメリカのルール戦略

安倍首相がTPP交渉参加を表明しました。 TPPに関しては賛否双方の主張がメディアやネット上に溢れているので、ここでは簡単に幾つか指摘しておきます。

推進派は「自由貿易は経済成長にプラス」を不変の真理と考えているようですが、これは歴史的事実に反します。ハジュン・チャン著『世界経済を破綻させる23の嘘』の「第7の嘘」で説明されていますが、イギリスやアメリカは世界貿易において支配的地位を固めるまでは保護主義的政策を続けていました。自由貿易とは、自国の支配的地位を継続させる(他国の追随を妨害する)ための手段だったのが実情です。

ほぼすべての富裕国が自由市場政策によって富み栄えるようになったということも事実ではない。事実は多かれ少なかれその反対である。わずかな例外をのぞけば、イギリスやアメリカをも含めた富裕国のすべてが、保護貿易補助金などを組み合わせた政策によって富を手に入れたのだ。

「国際競争にさらすことで農業など競争力の低い分野の生産性を高める」というのも、現実離れした空論に過ぎません。自然環境や人件費など基礎的条件の大差を努力で克服しようというのは「竹槍でB29に勝つ」と同じ精神論です。国内の駅伝大会を見ればわかることですが、日本の長距離ランナーがいくら努力しても、遺伝的に素質の違うケニア人ランナーには勝てないのと同じです。

TPPが当初、チリ、ニュージーランドシンガポールブルネイの4か国だったのは、これらの国々が特定産業に特化しており、しかも重なる分野が少ないため、経済的一体化を進めることによるマイナスが生じにくいためだと考えられます。小国に生じたメリットが、多種多様な産業を抱える日本にも生じるとは限らないことには注意が必要です。

製造業の「輸出を増やせる」という期待も、「高品質製品を作れば売れる」という思い込みに固執して失敗したことを思い起こさせます。日本のエレクトロニクス産業がアップルに惨敗したことが示すように、アメリカは「ソフトの優位はハードの優位に勝る」という思想で経済戦略を推し進めており、そのためにルールや規格作りに熱心です。現在の世界が“Pax Americana”である以上、多国間で共通ルールを作れば、それがアメリカ的なものになることは確実です*1。そうなると、最も得するのはアメリカ、最も損するのはアメリカナイズが進んでいない独自性の強い国ということになります。どう見てもそれが日本であることには要注意です*2

日本ではあまり報道されていませんが、オバマ政権はEUとの間で、TPPの大西洋版である“Transatlantic Free Trade Agreement”の締結に邁進しています。既に関税率が低いことから、アメリカの狙いが、コンテンツビジネスに有利な知的財産権の強化(パブリックドメインにすることを妨げる)や、ビッグデータビジネスのためにEUの厳しいプライバシー保護を緩和させることであることは周知の事実となっています。TPPにおけるアメリカの真の狙いも同じであることは間違いありません。

日本が独自性の強い大国であることを自覚した上で交渉に臨んでもらいたいものです。

彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆うし」(孫子

 

 

世界経済を破綻させる23の嘘

世界経済を破綻させる23の嘘

イギリス 繁栄のあとさき

イギリス 繁栄のあとさき

*1:川北稔著『イギリス 繁栄のあとさき』では、「英語」の経済的効果がとてつもなく大きいことが、イギリスの経済水準や威信の持続に寄与したことが指摘されています。

*2:昨年、欧米やアジアで大ヒットしたPSY『江南スタイル』が日本ではまったく流行らなかったことも、日本の独自性の強さを示しているように思えます。