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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

役員を邪悪に変えた業績連動報酬

3/13の記事では、企業再生策として推奨された「人件費の変動費化」のマイナス面について説明しました。今回は、これと並行して進められた「役員報酬の業績連動化」についてです。

1990年代後半から、「日本式経営は古い、アメリカ式経営に転換せよ」というアジテーションが日本中を席巻しました。その具体策の一つが役員報酬の業績連動化です。報酬を業績に連動させれば、役員には業績向上のインセンティブがより強く働くので、結果として業績は拡大し、従業員にも恩恵が及ぶ、というのが正当化のロジックでした。

これは一見すると正しいようですが、重大な欠陥があります。それは、企業と役員、従業員ではタイムホライズン(経済活動において見通している期間)が異なることです。企業は本来的には永続的存在(going concern)なので、役員の使命は、過去(前任者)から経営のバトンを引き継ぎ、業績改善の道筋を整えた上で、未来(後継者)へとバトンタッチすることになるはずです。役員には目先の得失ではなく長期的な視野で経営判断することが求められるのです。しかし、役員の在任期間は平均7年程度であり、若い従業員より先に会社を去ってしまいます。先に会社を去る人が永続的存在の舵取り役になっている、という根本的な困難性が存在しているのです。

先に会社を去る人には、潜在的に「後は野となれ山となれ」のインセンティブが働いています。役員報酬がこのインセンティブを封じ込めるように設定されていなければ、企業の長期的利益を犠牲にしてでも自分の報酬を増やそうという邪悪な誘惑に抵抗できない役員が出てきても不思議ではありません。役員報酬を成功報酬的にし過ぎないことが、 長期的には企業を守るのです。 

業績連動報酬(成功報酬化)とは、この邪悪なインセンティブを全開させるものに他なりません。役員ではありませんが、将来に巨額の損失が発生する可能性を知りながら、巨額の成功報酬欲しさにサブプライムローンを売りまくった金融マン(大多数は男)が好例です。在任中はマエストロと称賛されたグリーンスパンFRB前議長が、後には巨大バブルを膨らませ、世界を金融恐慌寸前に追い込んだA級戦犯と一転して非難されるようになったことも、「真の業績」を在任中に知ることの難しさを示しています。

役員報酬の業績連動化のもう一つの問題は、役員と従業員の利益を相反させ、所得格差拡大と従業員の士気低下を招いたことです。役員報酬が業績連動していない時代には、役員と従業員は業績拡大の成果を分け合う、という観念が一般的でした。役員が自分の報酬を増やすためには、まず従業員の報酬を増やさなければならない、ということであり、役員と従業員は利害を共にする同志でした。

ところが、役員報酬が業績連動化すると、人件費削減→企業利益増加→役員報酬増加、すなわち、従業員の損が役員の得になってしまいました。役員から見た従業員は「搾取の対象」に成り下がってしまったわけです。賃下げ・雇用崩壊の一方で、役員報酬が急増しているのでは、組織としての一体感を保つことはほとんど不可能です。定量化することは困難ですが、従業員の士気低下が生産性上昇の阻害要因になっていることは間違いないでしょう。

結局のところ、日本企業を再生するという触れ込みで導入されたアメリカ的報酬制度は、日本経済に消費低迷、所得格差拡大、生産性上昇鈍化など、取り返すことが難しい負の要因をもたらしました(ハブ退治にマングースを連れて来たら、ハブではなくヤンバルクイナアマミノクロウサギが減少してしまったようなもの)。政府・日銀がバブル崩壊や超円高に適切に対応していればこんなことにはならなかったのですが、後の祭りです。

 

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