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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

「インフレ誘導で経済再生」の論点整理

金融

アベノミクスの柱である「一段の金融緩和でデフレ脱却」(いわゆるリフレ政策)については賛成派と反対派が真っ二つに分かれており、どちらが正しいか判断がつきかねている人が多いと思われます。そこで、一般の人々でも理解できるように論点整理してみます。

論点1:「デフレだから需要不足」なのか「需要不足だからデフレ」なのか

因果関係が「デフレ→需要不足」と「需要不足→デフレ」のどちらの方向なのか、ということです。(片方だけが正しいということではなく、どちらがより強いかということ)

前者は、デフレ→値下がり予想→消費の先送り→消費減少と、実質金利(=名目金利-インフレ率)の上昇→投資減少、による需要減少を想定しています。「金融政策の基礎解説①」で説明したように、デフレは生産能力に比べて貨幣量が過少であることから生じているので、この場合は、貨幣量を増やす→インフレ転換→需要不足解消、が経済再生の道筋ということになります。

これに対しては、いつまでも消費の先送りを続けることは難しいことや、実質金利よりも需要拡大の見通しが立たないことが投資抑制の主因であるため、デフレによる需要減少はあっても軽微、という反論があります。この反論が正しいのであれば、後者の因果関係のほうが強いことになります。

後者では、何らかの要因によって所得が減少→需要減少→生産能力が貨幣量に比べて過剰に→デフレ、という因果関係が想定されており、インフレは需要不足の解消を示すバロメータになります。この場合、所得(特に家計所得)を減少させている何らかの要因を取り除くことが経済再生の道筋になります。何らかの要因除去のために貨幣量増加が必要かもしれませんが、貨幣量を増加させれば自然に「何からの要因」が除去されるわけではないことが重要なポイントです。(「何らかの要因」については過去記事を参照)

論点2:日本銀行国債購入して日銀当座預金を増やせばインフレになるのか

日銀が銀行から国債等の金融資産を購入すれば、引き換えに日銀から銀行の日銀当座預金に資金が供給されます。日銀に一段の金融緩和を求める論者は、日銀が大量の国債を買い上げて銀行の日銀当座預金残高を増やしていけば、企業と家計がインフレ転換を予測して需要を活発化させるため、インフレ予測が自己実現する、と主張しています。

この主張の弱点は、企業と家計の行動が、縁遠い存在である日銀当座預金残高に影響されるとは考えにくいことです(日銀当座預金残高を購買行動の参考にしている読者はいないでしょう)。

銀行の日銀当座預金残高が増えれば、銀行が企業や家計への資金供給(貸付)を増やすため、経済全体の貨幣量が増えてデフレ脱却・需要不足解消が実現する、という主張もあります。これについては「金融政策の基礎解説②」で解説する予定です。

整理

「デフレが需要不足の原因」かつ「日銀は銀行の日銀当座預金残高を増やすことでインフレを実現できる」のであれば、15年続くデフレ不況の責任は日銀にあることになります。一段の金融緩和によるデフレ脱却を求める論者(リフレ派)の日銀批判が激しいのはそのためです。

しかし、「需要不足がデフレの原因」and/or「日銀当座預金残高増額はインフレに直結しない」のであれば、リフレ派の日銀批判は的外れなものとなります。

海外の専門家はどうかというと、以前は多数がリフレ派でしたが、近年では欧米中銀の大規模な量的緩和(当座預金残高増額)の景気刺激効果が乏しいことから、「『日銀が当座預金残高を激増させればデフレ不況から脱却できる』とは単純には言い切れない」という見方が有力になってきているようです。ようやくリフレ政策が実行に移される頃には、国内のリフレ派が頼りにしてきた海外の応援団は「転向」しつつあるのです。

私の考えは、

  • 「デフレ→需要不足」より「需要不足→デフレ」の因果関係が強い
  • 需要不足解消のバロメーターであるインフレを実現させる政策が必要
  • インフレ実現は100%可能であり、そのためには日銀の資金供給が不可欠
  • ただし、日銀当座預金残高を目標にすることは適当ではない

というものです。

これが正しいとすると、「日銀が当座預金残高を激増させる→インフレ転換→需要不足解消」とするリフレ派も、「日銀にインフレ誘導する能力はない・国債購入増額は思わぬ副作用を招く」とする反リフレ派のどちらも部分的に正しく、部分的に誤っていることになります。リフレ政策論争が分かりにくいのはこのためです。

ところで、リフレ派の論理には穴があるわけですが、リフレ政策が結果的に成功する可能性も十分あります。企業や家計と違い、金融市場参加者は「日銀が何かするのでは」という思惑に敏感に反応します。実際、安倍首相就任後、日銀の金融政策は変化していなくても円安・株高が進んでいますが、これは明らかに需要増大・インフレ要因です。日銀の金融政策とは直接的に関係ない金融市場参加者の思惑(勘違い?)が、デフレ不況脱却の原動力になり得る、というのが経済の面白いところです。「景気は気から」と言いますが、日銀当座預金残高増額というプラセボ効果で本当に経済が再生したら、後世の経済史に特筆されることは間違いないでしょう。

 

参考記事