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Think outside the box

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超円高の真因とマネタリーベース万能主義者

金融

2008年のリーマンショック後の超円高を、日本銀行が金融緩和に消極的な証拠として挙げる論者がいます。日銀のマネタリーベース(=現金+中央銀行の当座預金)供給がFRBに比べて過少だったことが、相対的ドル余剰→ドル安円高を招いた、というロジックです。過去記事からグラフを再掲します。 

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過去のデータがこのロジックを支持しないことは過去記事で検証済みです。

  • 日銀が量的緩和中の2003~05年にはむしろ円高であった(1ドル=160円になってもよかったはずだが、実際には一時100円寸前までの円高に)。
  • 2006年の量的緩和終了後に円高にならなかった。
  • 2008年末以降のFRB量的緩和の規模に比べると円高進行の程度が小さい(長期の相関関係にあてはめると1ドル=30円台になってもおかしくなかったはず)。

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2006~07年頃のFX(外国為替証拠金取引)ブームにおいて、高金利の豪ドルやNZドル買いが活発化したことが示すように、為替レートを動かす基本的要因は金利です。日米の2年国債利回りの差とドル円為替レートを比較すると、マネタリーベース比よりも密接に連動していることが一目瞭然です(アメリカの量的緩和開始前の円高も説明)。

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もっとも、金利差だけでは超円高は説明しきれません。2010年後半以降、金利差は1ドル=85~90円程度を示唆していますが、実際には一時76円台まで円高が進んだからです。

この原因を探るヒントになるのがスイスフランの動きです。この時期、ユーロ不安の深刻化などにより、国際金融市場にはリスク回避の動きが強まりました。伝統的に低インフレなことから逃避通貨として定評のあるスイスフラン買いが激化したのはそのめです。そのスイスフランと円が同じ動きをしていることは、逃避通貨としてのプレミアム(≒デフレ継続予想)が円高の追加的要因であったことを示しています。

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今後を占うにあたって注目されるのが2012年2~3月の円安です。これは、日銀が2月の金融政策決定会合で、「中長期的な物価安定の目途」(当面は消費者物価の前年比上昇率1%)を新たに導入するとしたことが、(特に外人投資家に)インフレターゲット政策と受け止められ(誤解され)、投機的な円売りが強まったことによるものです。しかし、具体策が伴わなかったことから、効果は1か月程度しか持続しませんでした。

昨年末からの円安は5か月も持続し、金利差が示唆する1ドル=86円程度より約10円の円安水準に到達していますが、これは安倍政権と新体制の日銀がインフレ政策を断行するとの期待に支えられたものであり、実効性の高い具体策が打ち出されなければ、昨年2月の二の舞に終わる可能性も否定できません。量的緩和拡大による円安誘導効果は市場参加者の予想に依存するため(思惑次第)、確実性に欠けることにも要注意です。

このように、金利差や信用不安、インフレ予想など、為替レートのモデルに用いられる基本的要因のほうが、マネタリーベースよりも超円高をうまく説明できます。このことを無視してマネタリーベースだけで為替レートが説明できると言うのはさすがに乱暴すぎるでしょう。

 

参考記事