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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

『国家は破綻する』の計算間違い:続報

財政・国債

昨日の記事で紹介したラインハートとロゴフ(RR)論文の計算間違い疑惑は、二人が間違いを認めたことで確定しました。

RRは、第二次大戦後の先進国では、

  1. 政府債務の対GDPが高くなるほど実質成長率は低くなる傾向にある。
  2. 政府債務の対GDP比が90%を超えると実質成長率は急低下する(90%が閾値)。

ことを平均値で示していました。

マサチューセッツ大学アマースト校の28歳の学生Herndonは、論文作成の練習としてRR論文の再現に挑みましたが、どうしても成功しなかったため、最後はRRにデータの入ったエクセルファイルを提供してもらいました。そのエクセルのスプレッドシートを検証していたところ、平均値が誤って算出されていることが発見され、それを基にして指導教官のAshとPollinと連名で作成されたのが今回のHAP論文です。

RRでは「90%の閾値を超えると実質成長率はマイナスに落ち込む」ということでしたが、HAPでは緩やかな低下にとどまっていることが分かります(グラフの大きいマーカー)。

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平均値の計算間違いは認めたRRですが、今度は中央値(median)を用いて「RRとHAPの計算結果はほぼ一致している」「政府債務の対GDP比が高くなるほど実質成長率は低くなる、という結論は変わらない」と強弁しています。

しかし、RR論文が衝撃的だったのは1.ではなく2.の「90%を超える政府債務は成長率を引き下げる(デットオーバーハング」と暗に示唆していることであり、これが否定されれば、論文の衝撃は霧散してしまいます。

ヨーロッパ各国ではRRのデットオーバーハング説を根拠に「財政赤字削減が景気を回復させる」とする"Expansionary austerity"が強行され、ギリシャやスペインでは大恐慌時に匹敵する失業が発生しています。これから本格化するアメリカの予算削減もこの説に基づいています。

単なる計算間違いが数千万人の生活を破壊したことは、ケインズの「世界はアイデアに支配されている」[1]という言葉の正しさを実証しているようです。

 

追記:関連記事

 

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Study Debunking Austerity Research Sparks Wide Reaction


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[1]ジョン・メイナード・ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』((山形浩生 訳)のセクションVを参照。