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ユニクロの世界同一賃金と日本の総ブラック化

ユニクロが世界同一賃金を導入すると報じられています。柳井会長が朝日新聞のインタビューに答えています。 

新興国や途上国にも優秀な社員がいるのに、同じ会社にいても、国が違うから賃金が低いというのは、グローバルに事業を展開しようとする企業ではあり得ない 

グローバルにビジネスを展開する人々の多くが、世界同一賃金を必然的・合理的なものと考えているようです。特にサービス業では、国によって労働者の生産性に大差があるようには見えないため、この考えになじみやすいようです。

しかし、国が違うと賃金が違うのは、経済メカニズムが正常に機能した結果です。それを無視して世界同一賃金化を図れば、副作用が生じることは避けられません。

サービス業では先進国と途上国の労働者の生産性に大差がないにもかかわらず、賃金には大差が生じているのは、

  1. 資本(機械設備やインフラ)や技術が生産性を左右するセクター(主に製造業)では先進国と途上国の労働生産性格差が大きいため、それを反映して賃金にも大差が生じる。
  2. サービスは輸入が困難なため、国内生産に従事する労働者が不可欠。
  3. それぞれの国において、各産業の賃金は、各産業の生産に必要な労働者を確保できる水準に決まる。産業間の労働者移動を通じて各産業の賃金水準には均等化圧力が働くため、製造業とサービス業の賃金水準がかけ離れることはない。
  4. そのため、製造業の生産性が途上国に比べて高い先進国では、サービス業の賃金が途上国に比べて高くなる。

ためです。サービス業が人手不足になった場合、労働力を求める先は国内の他産業であって海外の同産業ではありません(移民が制限されている場合)。そのため、サービス業の賃金は海外の同産業の賃金ではなく国内の他産業の賃金が基準になって決まるのです。*1

柳井会長は、

日本の店長やパートより欧米の店長のほうがよほど高い。日本で賃下げをするのは考えていない。一方で途上国の賃金をいきなり欧米並みにはできない。それをどう平準化し、実質的に同じにするか、具体的な仕組みを検討している

と語っていますが、欧米>日本>途上国の賃金をすべて日本と同一化すれば、欧米では優秀な人材が雇えなくなり、途上国では相場からかけ離れた割高な賃金を支払うことになってしまいます。これは明らかに損失です。

柳井会長は離職率の高さについて問われて、

将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない*2

と答えています。柳井会長やその支持者は、自分は1億円(柳井会長はそれどころではありませんが)の価値がある優秀な人間なのだから、途上国の労働者に勤勉さで劣る一般労働者の賃金を100万円に「適正化」して捻出した金を自分の懐に入れる正当な権利があると思っているのかもしれませんが、それは都合の良すぎる考えです。

ハジュン・チャン著『世界経済を破綻させる23の嘘』で 

富める国の人々が貧しい国の同業者よりもずっと生産性が高い部門においても、その生産性の高さは、かなりの程度システムのおかげであり、個人的な力によるものではない。富裕国の一部の人々が貧しい国の同業者よりも何百倍も生産性が高いのは、彼らがより賢いからでも、よりよい教育を受けているからでもない。そうしたことがおもな理由であるとも言えない。彼らがそれほどの生産性を発揮できるのは、高度な技術、よく組織された会社、優れた制度、しっかりしたインフラのおかげなのである。こうしたものはみな、過去何世代にもわたる集団的活動によってつくりあげられたものなのだ。

と指摘されているように、一部の日本人の高生産性も「かなりの程度システムのおかげ」です。これらのシステムからもたらされる所得は、日本人全体に(労働市場を通じて)適正に分配されるべきであり、一部の日本人が独占するのは不当でしょう(共産主義崩壊後のどさくさに紛れてロシアの資源を私物化・独占したオリガルヒが連想されます)。

途上国から海外に出稼ぎにでている人がいる、それも下働きの仕事で。グローバル競争のもとで、他国の人ができない付加価値を作り出せなかったら、日本人もそうやって働くしかなくなる。グローバル経済というのは『Grow or Die』(成長か、さもなければ死か)。

柳井会長は「途上国並みの条件で働くか、さもなければ」の二者択一を迫っていますが、日本を含む先進国の労働者が、途上国の労働者ほど必死で働かなくても高所得を得られるのは、先人たちから受け継いだシステムを利用できるからです。「1億円と100万円に二極化」とは、「システムの恩恵はロシアのオリガルヒのように自分たちだけが独占的に享受するから(1億円)、一般労働者は途上国並みに働け(100万円)、さもなければ死ね」ということに他なりません。なぜ先進国の労働者がオリガルヒのために途上国の労働者並みにこき使われなければならないのでしょうか。まさに日本総ブラック企業です。このような思想が安倍政権の経済政策に反映されないことを祈ります。

日本経済が再生して一般労働者の賃金が上昇に転じれば、途上国並みの待遇のユニクロから優秀な人々が離れていくことは確実でしょう。

(追記:各国の物価差は考慮すると断ってはいますが、それなら100万円という数字は出てこないでしょう。本心では日本の一般従業員の年収を100万円に近づけることを志向していると思われても仕方ありません。)

生産性以上の賃金を得られて何が悪いか】に続く。 

世界経済を破綻させる23の嘘

世界経済を破綻させる23の嘘

*1:サービス業の賃金が途上国と同一化する条件は、①途上国から移民を大量に受け入れる、②製造業の生産性を途上国水準に低下させる、ですが、これは日本の途上国化・経済社会の破壊を意味します。安易なグローバル化は日本社会の破壊と紙一重ということには注意が必要です。

*2:柳井会長はトーマス・フリードマン著『フラット化する世界』に影響されているのかもしれませんが、フリードマンの専門は外交・中東問題であり、経済は全くの門外漢です。実際、フリードマンの経済論考は多くのエコノミストから酷評されています。