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生産性以上の賃金を得られて何が悪いか

前回記事(ユニクロの世界同一賃金と日本の総ブラック化)で説明した「サービス業の世界同一賃金化がナンセンスな理由」を数値例を用いて再説明します。

まず、産業を貿易可能でグローバル市場が成立している貿易財産業(ここでは製造業)と貿易不能でローカル市場に分断されている非貿易財産業(ここではサービス業)に二分します。また、世界の国々を、製造業の生産性が高い先進国と低い途上国に二分します。先進国の製造業の生産性(労働者1人当たりの生産量)は途上国の10倍とします。

ポイントは、製造業ではグローバル市場が成立しているが、サービス業では成立していないことです。先進国と途上国の価格と賃金は次のように決まります。

  1. グローバル市場では価格は均等化する(一物一価の法則)→貿易財価格は先進国と途上国で等しくなる(ここでは1とする)。
  2. 製造業の賃金は、貿易財1単位当たり(単位労働コスト)が等しくなる水準に決まる→先進国の賃金は途上国の10倍になる(ここでは10と1とする)。
  3. サービス業の賃金は、先進国と途上国それぞれの労働市場で製造業の賃金と大幅に乖離しない水準になる(ここでは等しくなるとする)→先進国10、途上国1。
  4. サービス業のコストの多くを人件費が占めるので、先進国のサービス価格は賃金差を反映して途上国の10倍になる。

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製造業の生産性が、直接的には関係しないサービス業の賃金と価格を決めているのです。製造業の生産性が高い国ほど、サービス業の価格と賃金が相対的に割高になります。*1

先進国のサービス業の労働者は、途上国の労働者と比べると生産性以上の賃金を得られるので、ユニクロの柳井会長のような人から見ると「もらい過ぎ・100万円が適正」ということになるのでしょうが、果たしてそうでしょうか。

割高賃金の日本人サービス業労働者を、適正賃金の途上国の外国人とそっくり入れ替えるとします。家族も含めると人口の過半数が途上国の外国人になってしまいますが、そうなった際に、製造業が同じ生産性を維持できるとは考えにくいでしょう。製造業の高生産性は、直接には関係しないサービス業労働者も含めた日本の経済社会システム(管理が行き届いたインフラ、清潔な環境、高い教育・知識水準、時間や約束を厳守する人々、治安の良さ、等々)によって支えられているのであり、そのシステムが崩壊すれば、上に載っている製造業の高生産性も維持できません。サービス業の労働者も、間接的に製造業の高生産性に寄与しているということです。

日本人労働者に途上国並みの賃金しか支払わないということは、日本人全員が共同で維持するこのシステムをタダで利用(私物化)しようということに他なりません。経営者など一部の人々は、このシステムの価値そのものに気付いていないか(空気の価値を普段は意識しないようなもの)、システムをすべて自分が築き上げたもののように錯覚しているのかもしれません。日本人労働者に途上国並みの賃金しか支払いたくないのであれば、日本のシステムの恩恵を受けられない途上国に移住してビジネスを展開すればよいと思うのですが。日本の優れたシステムを途上国並みのコストで使おうというのは虫が良すぎると言わざるを得ません。

世界経済を破綻させる23の嘘

世界経済を破綻させる23の嘘

富める国の人々が貧しい国の同業者よりもずっと生産性が高い部門においても、その生産性の高さは、かなりの程度システムのおかげであり、個人的な力によるものではない。……彼らがそれほどの生産性を発揮できるのは、高度な技術、よく組織された会社、優れた制度、しっかりしたインフラのおかげなのである。こうしたものはみな、過去何世代にもわたる集団的活動によってつくりあげられたものなのだ。

*1:バラッサ―サミュエルソン効果