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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

アベノミクスで苦しくなる年金生活の高齢者

社会保障 アベノミクス

日本経済の成長を阻害していた円高の是正が定着すれば、日本経済はインフレ・実質プラス成長・名目プラス成長(たとえばインフレ率2%、実質2%成長、名目4%)への正常化を果たす可能性が高まります。円安やインフレは実質購買力を低下させる(国民生活を貧しくする)、という批判がありますが、安倍首相の要望に応じて企業が賃上げに転じれば、現役世代の実質所得水準は上昇し、経済再生の成果が多くの国民に分配されることになります。

しかし、アベノミクス成功の成果が分配されないどころか、逆に貧しくなることが確定している人々がいることには留意しておく必要があるでしょう。それは、生活費の多くを年金に頼って生活している高齢者です。

年金給付額は物価が上昇しても実質額が変わらないように改定されますが(物価スライド)、物価下落に応じて名目額を減少させなかったため、現在では本来の水準より2.5%多くなっています(特例水準)。これについては2013年10月~2015年4月に本来水準への引き下げが決まっています。

アベノミクスが目指す2%インフレが実現すれば2004年制度改正で導入されていたマクロ経済スライドが発動されるため、年金の実質給付額はさらに減少します。マクロ経済スライドとは、現役世代(被保険者)の保険料負担を抑制するために実質給付額を切り下げるもので、削減率は年1%程度と想定されています[1]。物価が2%上昇しても名目給付額は1%しか増加させないことで、年金給付総額を抑制し、年金財政を安定させるものです。ただし、名目給付額は減少させないこととされてきたため、2004年度改正で導入されたものの、一度も発動されませんでした。

これまで、年金受給者はデフレのお蔭でマクロ経済スライド発動による年金給付額の実質減少を免れてきたわけですが、アベノミクスが奏功すれば、いよいよ実質減少に直撃されることになります。株式の配当金など、景気拡大によって増加する年金以外の所得があれば、年金給付額の実質減少を相殺できますが、そのような別途収入が見込めない高齢者にとっては、アベノミクスは実質生活水準を確実に低下させるものに他なりません。[2]

「円高是正→需要増大→デフレ脱却・インフレ転換」も「人口構造変化に応じた年金給付額の実質減額」のどちらも日本経済全体には望ましい政策なのですが、アベノミクスの成功が逆にマイナスに作用する年金生活の高齢者には気を配っておく必要があるでしょう。アベノミクスでは後回しにされている所得再分配について議論が必要かもしれません。

 

[1]スライド調整率=公的年金全体の被保険者の減少率+平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)

[2]2009年度財政検証では、マクロ経済スライドによる実質給付水準の調整は2038年度に終了予定でしたが、開始が遅れているので、終了もずれ込む見込みです。なお、終了時には所得代替率(=年金給付額/現役世代の手取り収入)は開始時よりも約20%低下するため、実質給付額減少の打撃が大きいのは、現在の高齢者ではなく将来の高齢者です。