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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

賃上げは従業員のためならず

「情けは人のためならず」という言葉があります。「人に対して情けを掛けておけば,巡り巡って自分に良い報いが返ってくるという意味」です(文化庁月報より)。社会は複数の人々の行動が相互作用・相互依存する場なので、ある人が社会に対して異なる行動を取れば、社会からのレスポンスも違ったものになります。「自分が得したいのなら、まずは他者を得させよ」というのは、人間社会をスムーズに動かすための先人の知恵と言えるでしょう。

この発想は、経済政策を考える際にも重要です。経済システムも個人・企業・政府が相互作用・相互依存する場なので、個々の主体が目先の利益を重視しすぎると、経済全体では望ましくない状態が実現してしまいます。その代表例が「倹約のパラドックス」で、個々の主体が手持ち資金の減少を避けようとして倹約に励むと、総需要の減少=総所得の減少が引き起こされ、より貧しくなってしまうことです。

(追記:関連記事【渋滞学と日本の最適化】)

これに似た状態にあるのが、 円安ではなく賃下げ・デフレを選択した1998年以降の日本経済です。日本経済が真に復活を遂げるためには、守銭奴と化した企業の行動変化が不可欠です。

企業の守銭奴ぶりを示すのが下のグラフです。「失われた20年」においても非金融法人企業が保有する現預金は増加を続けましたが、それよりも注目すべきは、純負債(株式を除く)が ピークの95年度末から300兆円以上も減少していることです。負債返済に充てていなければ、現預金が300兆円以上も貯めこまれていたことになります。現在では企業の純負債は1980年の水準を下回り、超健全財務状態になっています。

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企業が300兆円を捻出できたのは、雇用者報酬を抑制したためです。しかし、経済は相互作用・相互依存するシステムなので、家計から企業への巨額の所得移転は、巡り巡って企業に悪い報いを返します。

賃下げを正当化したのは輸出競争力の維持でしたが、賃下げは家計消費の原資を減らすことでもあります。企業は輸出競争力を維持するために、輸出の数倍の家計消費を抑制するという愚策を取り続けているのです。

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企業がこのような行動に走ってしまったのは、政府・日銀が円高を放置したことに原因があるため、企業を安易に責めることはできません。しかし、アベノミクスによる円高是正が定着し、安倍首相が雇用者報酬アップを呼びかけてもなお賃上げを渋るようであれば、「公共の福祉」という大義名分によって、政府の企業に対する影響力の行使が正当化されるでしょう。

その具体策については【安倍首相の賃上げ要請とクールビズ作戦】をどうぞ。

 

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<おまけ>

従業員に大幅な賃上げをした例としてはヘンリー・フォードが有名ですが、その主目的は、従業員を自社製品(T型)の購買者にすることではなく、従業員が辞めることによる生産効率の低下を防ぐことでした。

徹底した分業のフォード・システムでは、1人の従業員が辞めるだけで生産ラインが停止してしまいます。そのため、従業員に辞める気を起こさせないだけの高給を支払うことが、結果的にはペイします。当時は日給2.25ドルのところ、フォードは5ドル(半分はボーナス払い)という破格の日給で従業員を定着させることに成功しました。単位労働コストを低下させるために日給をアップする、という逆転の発想がフォードの非凡さを示しています。十分な従業員の確保と単位労働コストの低下に成功したことにより、T型の価格は従業員でも手が届く300ドル弱(当初の1/3)に低下しました。

以下のリンクを参考にしました。