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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

米英は日本経済には不似合なモデル

今更感がありますが、先月の日経ビジネスオンラインの特集「MBA看板教授が読むビジネス潮流」の最終回を検証します。

この議論の根本的な問題は、円高是正でも国内回帰に消極的な企業だけを取り上げ、積極的な企業は無視していることです。

では、今回の円安によって輸出企業が手にしたキャッシュ(現金)は、どこに投資されるでしょうか。スズキの鈴木修会長兼社長やホンダの伊東孝紳社長は、円安になったからといって生産拠点の国内回帰はないという趣旨の発言をしています。

パナソニックは1ドル=105-107円が定着すれば白物家電生産を国内回帰させると明らかにしています。

円高是正が定着すれば日本国内の生産コストが有利になる製品が増えるにもかかわらず、企業がそれに反応しない、というのは非現実的な想定です。 

このシリーズに共通するのは、

  • 先進国の製造業空洞化は不可避
  • 製造業も地産地消(需要のある国に生産拠点を投資する)→適地生産・貿易の否定
  • 製造業の空洞化は知識産業で埋めることが可能

という想定です。

私も、残念ながら、日本国内への投資はあまり期待できないと見ています。先進国の需要は頭打ちになっているため、伸び盛りの新興国に投資されるでしょう。現地国で稼いだキャッシュは、現地国に再投資され、さらなる需要の伸びに対応することになります。

そこで、モノを売るのではなく、製品に合わせたサービス価値を売ろうというのが、サービサイジングの考え方です。

なぜこのように考える学者が多いかですが、彼らが製造業の空洞化と知識産業の発達が生じたアメリカで学んだためではないかと推測されます。

 そして現在、グローバル・サプライチェーン・マネジメントは、さらにその先の段階を迎えています。米国を代表例として先進国の製造業は空洞化してしまい、工場はほとんど外国に行ってしまいました。

 「メーンストリートから仕事がなくなって、ウォールストリートだけが儲かっている」と言われるように、製造業をはじめとした地方経済は衰退し、金融業界だけが儲かっているいびつな状況です。

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彼らの主張の難点は、米英の特殊例を一般化してしまっていることです。米英が知識産業で稼げるのは、両国が現在と過去の覇権国家だったことから、デファクト・スタンダードを握っていることが大きな理由です(英語もその一つ)。これは他国が真似できない要因であるため、知識産業で稼ごうとしてもまず無理でしょう。米英が進んでいて、日本が遅れているわけではないのです。その米英でも製造業空洞化への反省の声が聞かれるようになっています。

ユーロ圏の「勝ち組」であるドイツなど、強い製造業を維持し続けている先進国はいくつもあり、脱製造業・サービス(知識産業)化は必然ではありません。 

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日本の参考になるだろう」とされるスイスやシンガポール*1も、大方のイメージに反して製造業の強い国です。

ハジュン・チャン著『世界経済を破綻させる23の嘘』p.144~

 このようにサービスを基盤にした発展戦略について否定的なことを挙げていくと、読者のなかにはこう反論するかたもいるかもしれない。では、スイスやシンガポールはどうなんだね? 二国ともサービスを基盤にして発展したのでは?

 たしかにそう言われてはいるが、実はこの二国、どちらもそのように発展したのではない。どちらの経済も製造業で成功したのである。

(中略)

  一人当たりの統計では、スイスは世界でもトップクラスの工業生産高を誇っている(データにもよるが、それが日本に次いで世界第二位という年もあった)。

 シンガポールもまた、世界でも五本の指に入る工業経済国である。そしてトップ・ファイブの残りの二国はフィンランドとスウェーデン。(中略)これまでにサービスに依存して高レベルの生活水準を達成した国はもちろん、そこそこの生活水準を実現した国さえひとつもないし、これからもないだろう。

途上国にキャッチアップされる先進国の製造業は技術集約的な方向にシフトし続けることを運命付けられていますが、アキレスと亀」の亀のように前進し続ける限り、国内に残り続けることが可能です。日本の製造業の衰退の原因はプラザ合意後の円の過大評価であり、円高が是正されれば、ドイツやシンガポールのように、製造業の国内生産で稼いでいくことは十分に可能でしょう。

空洞化先進国のアメリカでもトレンド転換の兆しが伺えます。PricewaterhouseCoopersのレポートは、ドル高是正(特に対人民元)と化石燃料価格下落(←シェール革命)によってアメリカ国内での生産コストが低下したことを主因と指摘しています。

日本の長期停滞の根本原因である円高の是正が進みつつあるにもかかわらず、国内生産の困難さや海外移転の必要性を声高に叫ぶ学者たちには困ったものです。自分の飯の種のためでしょうか?

彼らの言葉に従って国内生産能力を縮小すれば、高齢者が激増する一方で労働力人口が急減する将来、輸出能力の不足から貿易赤字に苦しむことになるでしょう。

 

 
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世界経済を破綻させる23の嘘

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*1:2012年のシンガポールのGDPに占める製造業の付加価値の割合は19.4%