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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

ソ連を滅ぼした『シベリアの呪い』

予告から5か月も経ってしまいましたが、2/7【ジャレド・ダイアモンド著『文明崩壊』に異論】の最後で触れたソビエト連邦崩壊の一因についてです。

10年前にブルッキングズ研究所の研究員 Fiona Hill 他が出版した"The Siberian Curse"では、ソ連がシベリアに眠る資源開発に膨大な経済資源を投入したことが経済効率を低下させ、体制崩壊につながったことを論証しています。

中でも面白いのが、シベリア開発に伴う「寒さのコスト」を、全国各地の気温をその地に住む住民数で加重平均した1人当たり気温 "Temperature Per Capita"(TPC)という指標で定量化しているところです。TPCの低下は人口の寒冷地への移動、上昇は寒冷地からの引上げを意味します。

1926年のソ連のTPCは-11.6℃で、アメリカ(1930)+1.1℃、スウェーデン(1930)-3.9℃、カナダ(1931)-9.9℃など他国に比べて低かったのですが、1989年に崩壊するまでにさらに約1℃低下しています。逆に、ほぼ同緯度に国土が広がるカナダは約1℃上昇しています。寒冷地に入植した白人が南方に撤退したことを意味しており、現在ではカナダの人口の大部分はアメリカとの国境線近くに住んでいます。

ソ連のTPCの低下は、寒冷地のシベリア開発に労働力を大量投入したことの反映ですが、寒冷地での生活や生産活動の維持に膨大な経済資源を必要とした結果、経済が回らなくなってしまったのです。シベリアに膨大な資源が眠っているのは事実なのですが、掘り出すのに国を傾けるほどのコストをかけては本末転倒です*1。なお、人口移動が自由になったソ連の崩壊後は、自然にTPCは上昇しました。

日本への政策的インプリケーションは、人口減少・過疎化への対応にカナダとソ連のどちらの道を選ぶか、ということですが、防災対策等で居住にコストがかかりすぎる地域からはカナダ人のように撤退するのが賢明です。ソ連の轍を踏むことはありません。

台湾・朝鮮・満州から撤退して国内に投資を集中したことが戦後の驚異的成長につながったように、捨てることも成長戦略であることが歴史の教訓といえるでしょう。

『シベリアの呪い』は、充実した内容にもかかわらず日本での認知度が低く、惜しいので紹介しました。


Crazy Russian Winter: What happens to boiling ...

The Siberian Curse: How Communist Planners Left Russia Out in the Cold

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*1:シェール革命による天然ガス価格の下落は、これまでペイしていた投資を「呪い」に変えてしまう脅威です。「シベリアの呪い」の第二幕が始まったのかもしれません。「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として。二度目は笑劇として。」というマルクスの言葉が思い出されます。