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ベクトル分解で理解するナチュラルランニングフォーム

シリーズの要約は【ナチュラルランニングの超まとめ】をどうぞ。

健康ランナーのためのバイオメカニクス】シリーズへのアクセスが多いので、ニーズに応えて第4弾をお送りします。

これまでは歩行と走行の違いについて詳しく説明しましたが、その違いがなぜ生じるのかを理解することが、ナチュラルなランニングフォームの体得に有効と思われます。

そこで問題です。歩行と走行のフォームを決定的に違ったものにしている、歩行にはなくて走行にはあるものは何でしょうか?

どちらかの足が常に着地しているのが歩行、両足が地面から離れる瞬間があるのが走行です。言い換えると、体が宙に浮くのが走行、浮かないのが歩行です。宙に浮けば重力によって必ず落下します。「重力による落下」(とその衝撃)が答えです。

歩行も走行も水平方向前方への移動ですが、走行には垂直方向の動きも加わっているわけです。歩行は水平成分だけを考慮すればよいのに対して、走行は水平成分と垂直成分にベクトル分解して考える必要があります。

ウォーキングとランニングのフォームの違いは、重力による落下の有無から生じます。脚は上腿(股関節~膝)、下腿(膝~足首)、足の3つの部分に分けられますが、異なるのは下腿と足の動きです。

ランニングの着地時の衝撃は落下のためにウォーキングの約2倍になります。ランニングでは1秒間に約3回、1時間なら10000回(片足5000回)着地するので、衝撃を適切に吸収しなければ、体に大きなダメージが加わって故障してしまいます。

“「つま先着地」vs「かかと着地」”の論争がありますが、踵で落下の衝撃を受け止めることは人体構造的にあり得ません*1。人体は落下の衝撃を膝と足首を曲げて(アキレス腱を伸張して)吸収する構造になっているので、ランニングでは足首が曲がるようにほぼフラット着地することになります*2。爪先を上げて踵から着地すると衝撃を十分に吸収できないため故障の原因になります。

足とつながっている下腿は、フラット着地と整合的な動きをする必要があるので、着地時には地面に垂直になります。これまでの記事で紹介したように、膝を真下に下げるイメージです(【健康ランニングのtips】を参照)。ランニングの動きの垂直成分(下向き)を担当するのが下腿ということです。

水平成分(前向き)を担当するのが上腿です。後足が地面から離れたら、素早く前方に振り出してストライドを稼ぎます。伸ばされたゴムひもが縮む要領で、脚の裏側の伸ばされた腱と筋肉を収縮させて膝を素早く折り畳むことが上腿をスムーズに前方に振り出すコツです*3

一方、ウォーキングは落下を伴わないため、足と下腿は着地時の衝撃吸収の役割から解放され、下腿も水平成分(前向き)の距離を稼ぐ動きをします。そのため、まず上腿が股関節から前に振り出される→続いて下腿が膝から前に振り出される→自然に踵から着地→指先に向けてローリング、という動きになるのです。

まとめると、ランニングは

  • 足:足首を瞬時に曲げられる角度(ほぼ地面にフラット)で着地→アキレス腱の伸縮を使って跳ねる
  • 下腿:フラット着地できるように地面に垂直になるように下ろす(垂直成分を担当)
  • 後足が離地したらゴムひもが縮むように膝を折り畳んでその勢いで前方に振る
  • 上腿:勢いを利用して股関節から大きく前に振り出す(水平成分を担当)
  • 上腿と下腿はそれぞれ水平成分と垂直成分を分業
  • 膝蹴り→踏み付けに近い動作

ウォーキングは

  • 上腿:前に振り出す(水平成分を担当)
  • 下腿:前に振り出す(水平成分を担当)
  • 足:踵から着地してローリング(アキレス腱の伸縮は使わない)
  • 上腿と下腿は水平成分を協業
  • 前蹴りに近い動作

となります。落下の有無/着地の衝撃の大小によって足と下腿の役割と動きが異なってくることがお分かりでしょう。下は着地時の模式図です(片脚のみ)。

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ランニングはウォーキングに比べて

  • 上体:前傾
  • 上腿:股関節の振り出し角度が大きい
  • 下腿:膝の角度が小さい(膝を伸ばさない)
  • 足:フラット着地(着地後ローリングしない)、アキレス腱の伸縮が大きい

となります。

人間はアフリカのサヴァンナで日中に獲物がばてるまで追い掛け回すことに適応して進化したと言われています*4。そのため、現在でも同じ生活を続けている人々は人間本来の走り方をしていると考えられます。下の動画の2:30~のランニングシーンからは、当記事の分析通りの走り方をしていることが見て取れます。


Human Mammal, Human Hunter - Attenborough ...

下の動画のようなスプリング入りシューズを履いて速く走るためには、ウォーキングのような踵着地→ローリングではなく、ばねの反発力を最大活用する垂直着地→前方に跳躍、が合理的な動きになることはお分かりでしょう。通常のランニングでも、垂直着地するとアキレス腱のばねが働くため、少ないエネルギーで速く走れます。反発力を垂直方向(上)ではなく水平方向(前)に向かわせるのがポイントです。


Do Kangoo Jumps on the Streets of New York! - I'll Take that Dare ...

 

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<注意>

ナチュラルなランニングではアキレス腱の伸縮(伸張―短縮サイクル)を利用してエネルギー効率を高めますが、アキレス腱周りの動きが錆びついてる人がいきなりこのフォームで走るとアキレス腱やハムストリングス等を痛める可能性があります。慣れるまでは無理をせず、アキレス腱や筋肉のトレーニングを並行して行ってください。アキレス腱が老化している人はランニングに耐えられなくなっているのでウォーキングを推奨します。

*1:階段を駆け下りる際には自然に踵着地を避けているはずです。

*2:垂直ジャンプの着地のように踵を高く上げてフォアフット着地しないのは、フォアフット→踵方向への接地は後ろ向きの動きになるので、前進運動にとってはロスになるためです。

*3:膝が伸びている状態と折り曲がった状態のどちらが股関節から振り易いか試してください。

*4:ダチョウが飛べなくなる代わりに走る能力を高めたのと同様に、人間は樹上生活の能力を失った代わりに霊長類としては例外的に長距離走する能力を獲得しています。放熱しやすい薄い体毛、大量の発汗、ばねの機能を果たすことでランニングのエネルギー効率を高めるアキレス腱、脚を前後にスイングするための尻の筋肉の発達などが進化の結果です。