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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

貨幣乗数の(よくある誤った)説明

金融

7/23【日銀理論は地動説、世界標準理論は天動説】で「そもそも存在しない」と書いた貨幣乗数について補足します。

前回記事でも紹介した下のリンク記事では、銀行を「誰かの余剰資金を借りて資金不足の誰かに貸す」資金の仲介役としています。

Q: 客が銀行にお金を貸してるの?

A: そういうことになるね。客が口座というところにお金を入れるんだ。つまりは銀行に貸したものだ。

Q: で、そのお金を銀行はどうするの?

A: また別の客に貸すんだ。

最初の客Aが銀行に100万円を貸す(預金する)とします。Aがいつ何時100万円を引き出しに来るかは予測困難ですが、預金者数が十分多ければ、預金者の引き出しに備えて銀行が現金として準備しておかなければならない割合が統計的に求められます(大数の法則)。

この割合が10%だとすると、銀行は最低10万円を現金(または中央銀行への預け金)として保有すれば、残り最大90万円を別の誰かに貸し出せます。するとたとえば、

銀行がBに90万円を貸す→Bは90万円の中古車をローンで買う→中古車販売業者Cは90万円の代金を銀行に預金する→銀行は90万円×0.9=81万円をDに貸す→…

というプロセスが続くことになります。銀行の貸出総額=90万円+81万円+72.9万円+…なので、高校数学の等比数列の和の公式「初項/公比」より900万円と求められます。

最初にAが預けた100万円の現金から900万円の貸出=預金が創造され、マネーストックは10倍の1000万円に拡大しています。このプロセスを信用創造、倍率を貨幣乗数と呼ぶ、というのが「教科書」的な説明です。現金が信用創造の「ベース」になっているので、銀行が現金を中央銀行の当座預金口座に預けている分と合わせてマネタリーベースと呼ぶわけです。

マネーストックが増えないとすれば、その原因は①中央銀行のマネタリーベース供給不足 and/or ②貨幣乗数の低下(銀行の信用創造機能の低下)になります。家計や企業が預金よりも現金で保有することを選好するようになると、貨幣乗数は低下しますが、マネタリーベース供給量をそれ以上に増やせばマネーストックを拡大できることになります。中央銀行マネーストックの「ベース」を完全にコントロールできるのだから、マネーストックの残高や伸び率も中央銀行がコントロールできる、ということです。7/18【日本銀行批判の変遷と検証】でも紹介した日銀批判論者は現代の金融・銀行をこのようなフレーム(モデル)で捉えているわけです。

もっとも、これまでの記事で説明したように、このモデルは因果関係を逆に捉えた「天動説」的な誤ったものです。銀行が誰かに1000万円を貸し出すことによって1000万円の預金がいきなり無から出現し、その後に現金として引き出されたり中央銀行の準備預金に積むために銀行は100万円のマネタリーベースを調達するのです。短期金融市場全体でマネタリーベースが不足していれば(→金利上昇)、中央銀行が100万円のマネタリーベースを創造・供給して不足を解消します(→金利が誘導水準に低下)。

分かってしまうと難しいことではないのですが、執拗に日銀を攻撃する人が多いことや、クルーグマンも理解していなかったことは、誤った信用創造貨幣乗数モデルが1300年も生き延びた天動説のように“die hard”であることを示しているようです*1

本当に日本銀行が悪いのか

本当に日本銀行が悪いのか

Googleブックスで読めるサンプルだけでも参考になります。リンクはこちら

*1:私見ですが、「頭がいい」あるいは「頭がいいと思っている」人ほど現実との整合性よりも、複雑・巧緻なモデルやトリッキーな解釈に執着する傾向が強いように思われます。