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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

マネーの価格三態と政府の不作為

需要に対して供給を増やせば価格は下がる、あるいは価格を下げれば需要が増える、というのが経済の大原則です。しかし、マネーの価格=金利にはゼロ下限があることが、資金需要を過少にとどめ、経済の需要不足とデフレを常態化させています。

では政策当局はお手上げかといえばそうではありません。金利とは別のマネーの価格に注目すれば、需給のバランスを変化させて資金需要を増大させることが可能だからです。

「別のマネーの価格」ですが、価格とはXと交換されるマネーの量*1のことなので、Xによっていろいろと定めることができます。金本位制では、単位重量の金と交換されるマネーの量が定められていました。大恐慌期のアメリカのルーズベルト政権は、それまでの1オンス=20.67ドルを35ドルに1.7倍に引き上げましたが、これはドルが金に対して41%減価したことを意味します。

Xを金に限らず財・サービス全般にすればインフレです。中央銀行が直接、各種の財・サービスを買い入れるわけにはいかないので、政府との合同作戦になります。ポイントは、中央銀行の対政府でのマネー供給=政府の財・サービス需要になることです。経済の需要不足が解消する(供給力がフル稼働になる)まで、政府が中央銀行からマネーを借りて財政支出を増やせば、財・サービスの供給に対して需要(=マネーの供給)が増えるので、財・サービス価格の全般的上昇すなわちインフレを実現できます。財政政策と金融政策の協調ということです。

これをやりすぎた最近の例が2000年代半ばのジンバブエです。ジンバブエは白人農場接収などによって供給力が不足していたところに、中央銀行に大量のマネーを供給させて財・サービス需要を維持しようとしたため、必然的にインフレになりました。ムガベ政権が「価格半減令」を出してインフレを鎮静化しようとしたところ、半額セールでは利益が出ない商店主は店頭から商品を引き上げてしまい*2、ますます需給バランスが崩れてハイパーインフレへと進む悪循環に陥ったというのが事の顛末です。

もう一つのXが外国通貨*3です。政府または中央銀行が外国為替市場で自国通貨を売れば*4、確実に自国通貨を減価させられます。実需あるいは投機による自国通貨需要はどんなに多くても有限ですが、自国通貨のマネー供給には限度が無いからです*5。極論ですが、仮に1000兆円の日本円買いが殺到しても、1000兆円以上の円売りで応えれば円安を実現できます。自国通貨安になれば自国と外国の財・サービスの相対価格が変化するので、自国の財・サービス需要が増えます。需要不足が解消する為替レートになるまで外国為替市場にマネーを供給すればインフレ到来です。外国為替政策と金融政策の協調ということです。

このように、財政政策and/or外国為替政策と協調すれば、デフレと需要不足からの脱却は難しいことではありません。問題は、日本ではどちらも主導権が政府にあることです。ほとんど前例のない行動のリスクを取りたくない政府(とその追従者)が、不作為の結果としてのデフレ不況の原因と責任を日本銀行に押し付けているように見えます。日銀には前例のない行動を要求する一方で、政府には規律ある≒前例の範囲内での行動を要求するのはダブルスタンダードではないでしょうか*6

 

<参考>

1990年代末に日銀の一部からデフレ対策として円売り介入が提案されましたが、無視されました。

日本銀行金融研究所の翁・白塚による『週刊東洋経済』(2000年1月15日号)への寄稿。

かりに、「行き過ぎた」円高が生じデフレ・スパイラルへ陥る懸念が台頭してきたときにどうするのか、という問題は残る。しかし、もし、行き過ぎた円高が明確に識別できるのであれば、理論的な答えはむしろ簡単である。行き過ぎに歯止めをかけるために、行き過ぎでない為替相場水準で無制限にドルを購入することをアナウンスすればよい。政府はドル買い介入のための円資金を短期政府証券の発行により調達でき、ゼロ金利政策がとられている限りは、政府はほぼゼロの金利コストでこうした政策を実行できる。

 重要なポイントは、為替政策のレジーム・チェンジについて市場参加者の信認を獲得することである。大蔵省がこうした徹底介入を本気で実行すると市場参加者が信じれば、実際には大量の介入を行なわなくても、円高は止まるだろう。そのためには、金融政策の運営を変える必要はなく、介入政策の方針を変えればよい。ゼロ金利政策と無制限介入の組み合わせは行き過ぎた円高への対処案に十分なりうる。

金融政策の論点―検証・ゼロ金利政策

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円売り介入によるデフレ不況脱却を主張していた数少ない民間エコノミストの一人が河野龍太郎です。

円安再生―成長回復への道筋

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*1:現在の一定額と交換される将来のマネーの量から金利が算出されます。金利上昇とは、交換に必要となる将来のマネーの量が増えることです。

*2:物品がないのに律儀に物価指数を算出していたのが面白いところです。当時の中央銀行のHPには10桁以上のCPIが掲載されていました。

*3:正確には為替

*4:スイスでは中央銀行SNBに為替介入権があるため、SNBが直接スイスフラン売りを行っていますが、日本では財務省に介入権があるので、財務省が日銀の誘導する短期金利とほぼ同金利で国庫短期証券を発行して介入資金を調達します。2003-04年の溝口財務官による35兆円介入は、日銀(福井総裁)が日銀当座預金残高を30~35兆円に増額する量的緩和によって事実上の無制限介入となっていました。

*5:政府の資金調達能力については【国債がデフォルトしないことの常識的な説明】を参照。

*6:アベノミクス第二・第三の矢も前例の範囲内にとどまっています。