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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

国債がデフォルトしないことの常識的な説明

財政・国債 経済記事ピックアップ 金融

8/9【政府の負債という「幽霊」を恐れる愚】では、日本国債が原理的にデフォルトしないことについて簡単に説明しましたが、どうしても腑に落ちない人も多いようです。その理由としては、

  • 相対性理論量子力学と同様、個人の日常生活に基づく直感的理解が困難。
  • デフォルトしない根拠として「中央銀行による国債の直接引き受け」や「政府による貨幣発行」という最も極端な(非現実的と思われている)方法が示されることが多いため、反射的に思考停止が引き起こされる。
  • 「デフォルトしない」が「いくら政府の負債を増やしても問題ない」「無税国家が実現可能」と主張しているかのように曲解される。

などが考えられます。そこで今回は、読者に納得してもらえるように、現実的なロジックで説明します。

かつては政府または政府が認可した銀行(中央銀行)がマネーを発行していましたが、現在では政府と中央銀行の発行する現金はマネーストックのごく一部に過ぎず*1、大部分は銀行の供給する預金です(ノルウェーでは1820年頃から約60年間で現金から預金に主役交代しました)*2。銀行券と貨幣(硬貨)は支払手段として政府と中央銀行が提供しているものであり、政府の財政収入にする目的で発行されているわけではありません。

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ではマネー発行を銀行に委ねた政府は、銀行に頭を下げて資金調達する立場に落ちぶれたのかと言えばそうではありません。政府は自らマネーを発行しなくても、国債を発行して市場から資金を(必要なだけ)調達できるからです*3。マネーの発行を銀行にアウトソースするようになっただけで、原理的にはマネーをいくらでも発行できるという本質は変わっていません。

それが可能なのは、安全資産である国債にはリスクフリー金利が付けば必ず買い手が現れる(需要がある)からです。

なぜリスクフリー*4かと言えば、

  • 経済に十分な生産能力があれば、政府は徴税権を行使して資金調達が可能
  • 中央銀行国債価格のコントロールが可能

であり、支払能力が(ほぼ)盤石と認識されているためです。第二次大戦~朝鮮戦争のアメリカが、中央銀行国債財務省証券)利回りの低位安定に協力した実例です。

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これに加えて、伝家の宝刀として

が控えています*5いくら国債発行残高が多くても借り換え(ロールオーバー)可能→ゆえにデフォルトしない、ということです。経営状態が悪化した企業が破綻するのは、リスクプレミアムが跳ね上がって資金調達できなくなるためですが、国家(政府)のリスクプレミアムはゼロで一定なので、そのような心配は杞憂です。

幸田真音のフィクション『日本国債』を現実と混同して、国債発行残高が増大し続ければ、市場参加者が国債消化を拒否する事態が生じる、と懸念している人もいるかもしれませんが、既にそのような事態が起こらないように制度が用意されています。

日本国債(上) (講談社文庫)

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日本国債(下) (講談社文庫)

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日本国債 オリジナル版〈下〉 (小学館文庫)

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日本国債 オリジナル版〈上〉 (小学館文庫)

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現実は『日本国債』のストーリーとは逆で、金融市場が混乱して市場参加者が「安全への逃避」に走ると、国債利回りがマイナスになることも珍しくありません。国債は銀行預金よりも信用度が高い金融商品だからです*6

このような場合には、乱暴な言い方をするなら、政府が市場に頭を下げて資金調達しているのではなく、市場参加者が超過コストを支払って(政府に頭を下げて)安全資産=国債を調達していることになります。

そもそも、それ自体に本質的価値のない(no intrinsic value)マネーを皆が受け取るのは、マネーの効力を保証する国家の存続を暗黙の前提にしているからです。ならば、マネーへの信認がある限り、銀行預金より信用度の高い国債の買い手がいなくなることもありません。裏を返せば、市場が国債消化を拒否(→国債価格が暴落)して中央銀行が引き受けざるを得ない時とは、国家の信用が失墜してマネーの価値も暴落する時、すなわち、生産能力の激減&マネタイゼーションによるハイパーインフレ*7ですが、これは別の議論になります

ハイパーインフレはさておき、国債がデフォルトしないことは、野放図に発行し続けても問題ないことを意味しません。財・サービス需要が旺盛で経済の供給能力に余裕がない時にマネーを追加供給すれば、「カネはあってもモノがない」ため、実質成長には寄与せず、インフレが進むだけです。総供給不足の景気過熱期(高インフレ)に高水準の国債発行を続けてはならないということです。マネーと総需要の過剰がインフレを昂進させないよう、税収を増やす税制度と引き締め政策が適切です。

逆に、景気停滞・後退期(低インフレ・デフレ)には、税収減&国債発行(→市中のマネー増加)で総需要不足を解消する拡張政策が適切です。

まとめると、経済の制約要因は生産能力であり、政府の負債額(国債発行残高)ではない、ということです。モノは無から創造できないが、需要不足はマネーを無から創造する「錬金術で解決できるのです。ただし、政府が国債を乱発して生産能力以上にマネーを供給すれば、インフレでマネーの価値が希薄化してしまいます。

ビンスヴァンガーによると、ゲーテの『ファウスト』第二部ではこの真理が語られていますが、天才ゲーテの200年近く前の洞察は未だに理解されていないようです。

金(かね)と魔術―『ファウスト』と近代経済 (叢書・ウニベルシタス)

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*1:2012年の日本では、M3のうち現金通貨は7%、預金通貨(当座預金・普通預金)は41%、定期預金・譲渡性預金(CD)は52%。

*2:預金口座から即時決済するデビットカードや、預金口座からチャージする電子マネーが現金に取って代われば、“マネーストック=預金のキャッシュレス社会が実現します。そうなれば、マネタリーベース=中央銀行の準備預金(当座預金)になります。

*3:金利ゼロの負債である貨幣(硬貨)や銀行券に比べれば国債には金利コストがかかりますが、営利企業銀行にマネーの発行を委ねたことで発生する必要経費(業務委託費)です。

*4:当然ですが、途中の価格変動リスクはあります。

*5:ギリシャが外部支援がなければデフォルトしていたのは、独自の中央銀行がない=自国通貨を持たないためです。日本が「円」を放棄して国債が外貨建てにならない限り、「日本がギリシャになる」ことはあり得ません。

*6:日本でも銀行預金は全額保護されませんが、国債は全額保護されます。

*7:直近の例が、“Mugabenomics”の結果、自国通貨の信用が失われて外貨が流通するようになったジンバブエです。