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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

「医療のビッグデータ」の思い違い

社会保障

先日、某健康保険組合の関係者から相談を受けました。

日本再興戦略』に、健保組合加入者の健康増進・疾病予防にいわゆるビッグデータを活用する「データヘルス計画」が盛り込まれたことで、健保組合にはコンサルティング会社等の提案・売り込みが相次いでいますが、その人の疑問は「コンサル屋の『健保組合が保有するデータは医療費削減を可能にする宝の山』という説明に納得がいかない」というものでした。

ビッグデータブームに煽られてか、国や地方自治体、企業、健保組合等の一部は既に走り出していますが、その人の疑問が的中していれば、税金や健康保険料が無駄なシステム投資に費やされてしまいます。 

[p.61]

健康保険法等に基づく厚生労働大臣指針(告示)を今年度中に改正し、全ての健康保険組合に対し、レセプト等のデータの分析、それに基づく加入者の健康保持増進のための事業計画として「データヘルス計画(仮称)」の作成・公表、事業実施、評価等の取組を求めるとともに、市町村国保が同様の取組を行うことを推進する。

ビッグデータに主に期待されているのは、

  •  膨大なデータから変数間の相関や傾向、法則性を見出すことで予測や最適な制御が可能になる。
  • リアルタイムでのデータ収拾→解析→最適制御が可能になる。

などで、下のリンク先記事が医療における実例です。

そのNICUは、最近話題の「ビッグデータ」処理技術をすぐにも生かしたい現場でもある。心電図、呼吸、神経機能、血中酸素濃度などの生理データから、各医用機器のデータまで、NICUの新生児は毎秒1200以上の極めて多量なデータの発生源となっているからだ。

<中略> 

もちろん、データが来たとしても人間がその大量データを常時チェックできるわけはない。そこで「ビッグデータ」処理技術というわけだ。特に期待されているのが、感染症の兆候を素早くつかむこと。感染症は1時間でも早く発見できれば、病状は軽くて済み、NICUの滞在日数も減り、社会全体の医療コストも減る。

<中略>

オンタリオ工科大のキャロライン・マクグレーガー教授は、ビジネス用解析ソフトで名を成した後、未熟児の女の子を出産し亡くした経験から、医療情報処理の研究に転身したという経歴の持ち主だ。NICUで発生する大量データのパターンの中から、さまざまな疾病の早期発見と予防の研究を「ビッグデータ」という言葉が知られていない時代から進めてきた、この分野のまさにパイオニアだ。

各種センサの小型化・低価格化と解析ソフト(アプリ)の開発が進めば、モバイル機器によるリアルタイム健康チェック・アラートも近未来には可能になるかもしれません。(下のリンク先記事中動画の15:30~)

現在では医師が行っている診断を、データベースに代替させる研究も進んでおり、アメリカでは高い精度が実現されているそうです。

冒頭の健保組合関係者に売り込みを図るコンサル屋は、このようなビジョンを健保組合の保有データの中に見ているのでしょうが、それは幻と考えられます。

健保組合が保有するのは、健康診断のデータと医療機関の受診や処方薬の記録(レセプトデータ)に過ぎません。そのデータを解析すれば、たとえば「HbA1cが6.0%を超える→糖尿病を発症する→多くの医療費を要する」という関係が抽出できますが、これは医学的に判明している事実を再確認しているだけです。わざわざデータを解析しなくても、健康診断でHbA1cが6.0%を超えた人をピックアップして健康指導を強化すれば済みます。

ビッグデータが役立つのは、因果関係は分からなくても、相関関係を基に手を打てるからですが、健康診断で得られるデータから現在の医学界が気付いていない未知の有用な相関関係が大量に見つかるとは考えにくいことです。医療においてビッグデータが役立つのは、因果関係が未知の相関関係を見出す研究段階、時々刻々と変化する大量のデータが溢れる医療現場、あるいはモバイル機器によるリアルタイム健康チェックであり、健保組合が保有する定期健診やレセプトのデータの性質はその対極にあります。高い金額を支払ってまで「ビッグデータによる健康増進・疾病予防・医療費削減システム」を購入する価値があるとは思えません(コンサル屋のセールストークでしょう)。

『日本再興戦略』では、医療・介護情報のナショナルデータベースを整備するとしていますが、これを医療の専門家が分析して様々な指針を作成し、健保組合に通知すれば目的は達成できます。なぜ医療の専門家集団でもない健保組合に分析させるのか意味不明です。

[p.13]

医療・介護・予防分野での ICT 利活用を加速し、世界で最も便利で効率的なシステムを作り上げる。このため、レセプト等の電子データの利活用、地域でのカルテ・介護情報の共有、国全体の NDB(ナショナルデータベース)の積極的活用等を図る。特に、全ての健保組合等に対して、レセプトデータの分析、活用等の事業計画の策定等を求めることを通じて、健康保持増進のための取組を抜本的に強化する。 

以上の見解を冒頭の健保関係者に伝えたところ、「自分も同意見」と言うことでした。無駄なシステム投資で貴重な税金・保険料を浪費するのはやめてほしいものです。

医療とビッグデータ・追考】と【地味ながら注目される医療の情報化の一手】に続く。

 

追記

ビッグデータと言うためにはこのレベルは必要でしょう。