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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

デフレ不況脱却途上における財政引き締めのインパクト:1937~38年の景気後退

来年4月の消費税率引き上げが濃厚になっているようですが、デフレ不況からの脱却途上における財政政策の失敗例として、アメリカの1937~38年の景気後退*1を検証します。

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1929年秋からの恐慌は1933年にルーズベルト大統領による金本位制停止によって食い止められ、それから急速な景気拡大に転じました。Temin and Wigmore (1990) “The End of One Big Deflation”によると、金価格引き上げ=ドルの金に対する減価(-41%)→為替レート減価→農産物価格上昇→農業収入増加(1933年には生産活動従事者の22%は農業)に決定的効果がありました。

The key to this change was Roosevelt's devalutaion of the dollar and the resulting rise in farm prices and incomes. … The devalution of the dollar was the single biggest signal that the iron grip of the gold standard had been broken. 

ところが、1937年の春から景気は後退に転じ、38年央まで続きました。株価も37年3月のピークから1年で半値以下に暴落し、反騰に転じたのは38年6月からでした。

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大恐慌における金融政策の役割を重視する論者は、この景気後退を、Fedの預金準備率引き上げ*2超過準備減少が金融引き締めとして作用した、と説明しています。確かに、一部の金利はわずかに上昇していますが、前後の期間と比べるとこの時期の急激な景気後退を説明できるようには見えません。

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景気に敏感な株価は準備率引き上げが始まった36年8月以降も続騰し、37年春に景気後退の兆候が出始めてから急落しています*3。超過準備の増減と景気及び株価動向が時期的に一致しないことも、この定説の説明力を低下させます。

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株価及び景気動向と一致するのは財政収支です。ニューディールの財政支出が過大ではないかという懸念から、37年春から財政支出削減が本格化しましたが、これとほぼ同じタイミングで生産の減少・インフレ率の低下が起こっています。逆に、38年央に財政支出削減路線が転換されると、生産は速やかに回復、株価も上昇に転じました。

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以上から得られる政策的インプリケーションは、

  • 成長率が高い状況であっても、デフレ不況からの脱却途上における拡張財政の縮小には急激な景気失速リスクがある→財政政策の効力の過小評価は危険
  • 超過準備には景気を左右する効果は(ほとんど)無い金融政策(量的緩和)の効力の過大評価は危険
  • 為替レート減価はデフレ脱却の必要条件

というものです。

政府・日本銀行が、消費税率引き上げの景気下押し効果を量的緩和拡大で乗り切れると目算を立てているのだとすれば心配です。財政再建元年のつもりが財政赤字激増元年になってしまった1997年の二の舞にならなければよいのですが。(2/14【財政赤字の増え方と減らし方】)

デフレ不況からの確実な脱却:ニューディール・高橋財政・アベノミクス】に続く。

 

参考

*1:1938年のGDPの前年比は名目-6.0%、実質-3.3%

*2:定期預金の場合、預金準備率は1936年8月から37年5月にかけて3%→6%に引き上げられた後、38年4月に5%に引き下げられ、41年11月には再び6%に引き上げられました。

*3:大恐慌期の株価の動きは、景気・政策の重要な転換点とほぼ一致しています。