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医療とビッグデータ・追考

10/2のNHKクローズアップ現代は「ムダの“見える化”で 医療の質を上げろ」でした(ネットに全文が公開されています)。

前半では、病院の各部署に分散していた患者データを集積・分析して、治療の質の向上と効率化に成功した岐阜大学附属病院の例を紹介していました。

9/12【「医療のビッグデータ」の思い違い】で触れましたが、医療の質の向上に役立つデータとは医療現場のデータであり、診療報酬の請求書のレセプトデータではありません。レセプトデータに患者の詳細な医療データが含まれていると勘違いしている部外者が多いようですが、現場の人間は勘違いに当惑しているのが実情です。そもそも、この程度のデータ分析は「ビッグデータ」と言えないでしょう。

後半では、医療以外の介護や勤務状況などのデータも集積して費用対効果の向上を図るスウェーデンが紹介されていました。スウェーデンで注目すべきは、医療の費用対効果の「効果」の捉え方です。

2/3【医療・介護が反・成長産業である理由】で説明したように、国全体にとっての医療の効果とは、病気や怪我で労働が困難または不可能になった人を労働に復帰させることで、生産を拡大することにあります。ある人の治療に1000万円かかったとしても、その人が労働に復帰して5000万円の付加価値を創出すれば、費用対効果は高いものになります*1。医療費削減=医療の効率化ではないということです

番組では、ある関節リューマチ患者に使用する薬が以前の10倍近い価格でも、症状の劇的な改善、休業補償の減少、労働時間と納税額の増加などの「効果」が上回るため、国が使用を勧めるようになったことを紹介していましたが、これこそ前述の考え方に通じる北欧流合理主義です。*2

このスウェーデンの「費用対効果」の日本への政策的インプリケーションは、「効果」を日本経済全体で判断するためには、当事者は健康保険組合(≒企業)ではなく、政府でなければならないことです。日本経済全体にとっての「効果」が個々の健保・企業の利益(費用減少)につながるとは限らないためです*3。そのため、日本全体にとってはプラスの医療支出が、個々の健保の判断で阻止されてしまい、日本全体の損失につながることが起こりえます。

データ分析を医療の質と、日本経済全体にとっての費用対効果の向上に役立てることは可能ですが、そのためには、番組で紹介されたような、医療機関における改善や、日本全体での包括的データ集積が必要です。個々の健保のレセプトデータを分析しても、医学的に分かりきった事実が抽出されるだけです。

繰り返しになりますが、データヘルス計画で無駄なシステム投資に貴重な税金や保険料を浪費するのはやめてもらいたいものです。

地味ながら注目される医療の情報化の一手】もどうぞ。

*1:故障した機械を廃棄するよりも、修理して使う方が得ということです。

*2:5/29【賃上げは従業員のためならず】で紹介したヘンリー・フォードと同じ発想です。

*3:納税額増加は国にとっては利益ですが、企業にとっては利益になりません。