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医療と不確実性(リスク)

最近、統計学への関心が高まっているようですが*1、生産者と消費者の統計理解に差がある分野の一つが医療です。

下の記事には*2、 


「優秀」な医療機関はごく一部、医療のビッグデータが示す現実とは:JBpress(日本ビジネスプレス)

日本の手術レベルが世界最高水準であることが示されました。

とあります。これを統計学の知識がある人が読めば、

ごく一部の治療成績の悪い医療機関がある一方、ごく一部の突出して良い治療成績を上げている医療機関があり、他の大部分は平均的な治療成績

で、「平均的な治療成績」が外国よりも高いことが容易に想像できます。個々には外国の医療機関に劣る日本の医療機関もあるが、全体としては日本の医療機関が好成績に分布している、ということです。個々には背の高い女もいれば背の低い男もいるが、全体としては男の身長は女よりも高い分布をしていることと同じです。

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ところが、この記事の筆者(医師)は、統計の知識を欠いた一般人は違った認識をするのではないか、と考えています。*3

悪い治療成績の医療機関はごく一部で、医療機関や医師の治療成績はおおむね高い水準に偏った分布をしている、一部を除けばどこで医療を受けても大きな差はない

大部分においては“平均的な治療成績”しかもたらしていないという“不都合な現実”が判明したら、一般の方々はどう感じるでしょうか?

これは考え過ぎとは言えません。「患者の権利法をつくる会」の

には、医療の治療成績は医師・医療機関と患者双方の要因によって確率的に分布することへの理解不足が表れているからです。

[p.15]

「最善」 の内容としては、 ①国内外における客観的な医療水準の側面、②医療提供者の提供レベルの側面、③患者自身の主観的・客観的ニーズからの側面等、それぞれの場面において評価の重点が考えられるが、いずれも「到達可能な最高水準」 でなければならない。なお、 客観的な医療水準は時代や科学技術の発達とともに変化するので、本項にいう最善の医療とは、その時代や地域の状況において到達可能で、かつ患者が期待しうる最高水準の医療を指す。

この要求が通れば、各々の症例に関して「日本一の医師」しか医療行為ができないことになってしまいます。一人(あるいは同レベルの少数)の医師が対応できる患者数には限界があるので、残りの患者は長期間待ち続けるか、「最高水準の医療」ができない医師の治療を受けることになります。治療が成功すれば問題ありませんが、治療成績が低ければ、医師は「最高水準の医療」を提供しなかったことでペナルティを受けることになります。こうなれば、医療崩壊一直線です。

このような無茶な要求の根底には、確率事象に関する根本的な誤解があります。

[p.15]

医療行為自体が不確実性を内包し、危険性を随伴している。これらの危険性をコントロールしながら医療行為を遂行することは、医療および医療従事者の本来的責務である。

個々の事象結果をコントロールできないのが不確実性あるいはリスク(確率的にしか予測できない)です。様々な改善努力によって成功確率を高めることは可能でも、コントロールできない要因のために不成功に終わる確率をゼロにすることはできません。不可能なことを「本来的責務」とされては、医療機関・医師が委縮して「防衛医療」が広まり、無駄な医療費が増えてしまいます。

投資に関しては「絶対はない」ことや「結果責任は問えない」ことは常識のようですが、医療も本質的には同じであることが周知されるべきではないでしょうか。

 

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*1:ビッグデータバズワードになったため?

*2:この程度のデータ分析を「ビッグデータ」と呼ぶのは不適当です。

*3:この記事の筆者も奇妙な認識をしています。