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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

教育再生実行会議の大躍進政策

政治・歴史・社会

教育再生実行会議の大学入試改革案が物議を醸しているようです。

日本の教育改革論議の非論理性・非科学性については元文部官僚が詳しく指摘していますが、今回の提言はこれまで以上になりそうです。

日本を滅ぼす教育論議 (講談社現代新書)

日本を滅ぼす教育論議 (講談社現代新書)

 

注目されている①成績を1点刻みではなく、ランクで示す、②二次試験のペーパーテストを廃止して面接等による「人間力」評価に切り替える、には非論理性・非科学性が顕著に表れています。

①ですが、これは「100m走の記録を0.01秒刻みで計測する必要はない→四捨五入して1秒ごとの階層区分が適切」と同じことです。9秒58の世界記録保持者のボルトと、10秒49の凡庸な選手を同じ「10秒」の階層にまとめることが適切と考える人はまずいないでしょう。10秒49と10秒50のわずかの差が「10秒と11秒」の大差に拡大されてしまうことも問題です。

②には、合否の客観基準が示されない(→恣意的・裁量的になる)こと、面接官の(無意識の)好みが左右すること、演技力に長けた受験者(サイコパスもその一種)が有利になること、などの問題があります。奇人変人に多い異能の才が排除されやすくなることは確実でしょう*1エマニュエル・トッドの言葉を借りれば、「知力に優れた者のやる気を失わせ、凡庸な者がヒエラルキーの頂点に頭角を現す」ことを促進する制度と言えます。(参考:9/12【クレイジーな人々が世界を変える】)

全大学共通の一次試験は、東京大学京都大学など高学力の受験生の選別に適さないことも問題です。優しい問題では満点近くに集中してしまうため、実力差をはっきりと見極められないためです*2。それに、東大や京大の二次試験は「暗記・記憶中心」ではないと思いますが(私立大学よりも思考力を要することは間違いありません)。

先日発表されたOECDの「成人の技能に関する調査」では、日本人の読解力と計算技能の高さが示されました。平均が高く、分散が小さいという理想的な成績です。

一方、改革案がモデルにしていると思われるアメリカは、調査対象国の平均以下です。

OECDによると、アメリカでは読解力と計算技能が経時的に向上していません。また、親の教育水準の差が子供に表れています。(以下、強調は引用者)

アメリカの55歳から64歳の成人の成績はほぼ平均と同じですが、若者は調査対象国54か国の同世代の中で、最下位です。

イングランド、ドイツ、イタリア、ポーランド、米国では、親の教育水準が低いと、その子どもの読解力の技能は、親の教育水準が高い子どものそれよりもはるかに低くなっています。 それに対して、両グループ間の差が最も小さいのは、オーストラリア、エストニア日本、スウェーデンです。

日本がアメリカの教育制度の真似をすれば、大躍進ではなく大後退になることは確実に思われます(中国の大躍進政策と同じことに)。

政治の介入が教育水準を低下させることの危険性にも要注意です。フィンランドとノルウェーの比較分析では、ノルウェーの教育水準が高くない背景に、政治の教員育成への過干渉があることが指摘されています。専門知識を欠く政治家が教育水準を引き下げているということです。これに対してフィンランドでは、教育の専門家が主導しています。*3

The author, Hilde Wågsås Afdal, found that while teacher education policies in Norway are controlled by politics, Finland leaves the development of teacher education policies to researchers and educators in the academic fields of education and pedagogy.

Teachers are often blamed for poor student performance, but educational policies are arguably much more significant, because they dictate what the education is about and how teaching should be conducted. These policies thus have a far-reaching influence on all of the country's teachers and how they do their jobs. 

"With politically directed processes, any academic knowledge is overshadowed by a focus on efficiency and result-oriented solutions," says Afdal. 

ノルウェーがフィンランドに劣る理由には、アメリカ的な競争志向も挙げられています。

Like Finland, Norway is small and not especially diverse overall, but unlike Finland it has taken an approach to education that is more American than Finnish. The result? Mediocre performance in the PISA survey.

近年、日本でも学校間競争を促進する動きが強まっていますが、競争を煽れば、成績の分散が大きくなるだけでなく、平均が低下することになりかねません(参考:4/19【学校間競争の帰結と扇動者の実態】)。

それにしても、教育改革が教育の門外漢によって進められるというのは恐ろしいことです。専門家が排除(排斥)されていることは、文化大革命を想起させます。

 

参考

*1:コミュニケーション巧者ではなく、大学入学後に特定分野に異能を示す人物の発掘を優先するのであれば意義があります。

*2:TOEICが高度な英語力の測定に不向きなのと同じこと。

*3:日本ではすぐに真似できませんが。