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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

甘利大臣の「賃上げしない企業は恥ずかしい」発言とリベラリズムのマインドコントロール

アベノミクス

企業に賃上げを強く求めた甘利経済産業大臣の発言が注目を集めています。

「企業収益が上がっているのに賃金を上げない、下請け代金を上げないのは恥ずかしい企業だ」という環境を正直つくりたいんです。

企業→家計の資金の流れが細っていること、たとえると、企業というダムが水(資金)を堰き止めて蒸発*1させてしまっているために、下流(家計→政府)が干上がっている*2ことが日本経済の停滞と財政悪化の原因であるなら、政府が企業に水門の開放と放水(賃上げ)を求めることは、公共の福祉を高めるという大所高所から正当化されるはずです[1]。交通渋滞による社会的損失を解消するために、政府がドライバーに「渋滞吸収運転」を要請することと同じです(参考【渋滞学と日本の最適化】)。

ところが、甘利発言に反発する声も少なくないようです(上のハフィントンポストの記事を参照)。また、海外の安い労働力が存在する限り、日本の賃金は上がらないという論者もいます。

それなのに‥現実には賃金がなかなか上がらない。

何故か?

最大の理由は、海外に安い労働力が存在しているからではないですか?!

その重要な事実を、今の安倍政権の閣僚たちは、意識してかしないでか分かりませんが、無視しているようにしか見えないのです。そして、安倍さんのファンたちも、その事実は敢てパスしてしまうのです。

このロジックが誤っていることは過去記事で説明しているのでここでは繰り返しませんが[2]、興味深いのは、誤ったロジックを振り回してまで賃上げ要請に反対する人が昔よりも増えているように思えることです。

その一因と考えられるが、経済リベラリズムの浸透です。(以下、強調は引用者)

The history of economics is largely a struggle between two opposing schools of thought, “liberalism” and “mercantilism.”

リベラリズムは企業活動に対する政府の介入を否定します。*3

The liberal model views the state as necessarily predatory and the private sector as inherently rent-seeking. So it advocates a strict separation between the state and private business.

また、消費者利益の最大化を大義名分に、際限ない低コスト化が進められます。 これが世界中で進行している格差拡大の背景にあります。(参考【シンガポールのワーキングプア】)

For liberals, consumers are king.  …, which requires giving them unhindered access to the cheapest-possible goods and services.

その結果、消費者でもある労働者の人件費にも容赦のない削減圧力がかけられることになります。

一方、リベラリズムに対するmercantilismでは、政府と企業は経済発展という目標を共有する協力関係にあるとされます。公共の福祉を損なわないことが、企業行動の暗黙の前提になっているということです。政府の役割は、企業が目標から逸脱しないようにすることであり、そのためには企業への干渉も正当化されます。

Mercantilism, by contrast, offers a corporatist vision in which the state and private business are allies and cooperate in pursuit of common objectives, such as domestic economic growth or national power.

リベラリズムとは異なり、生産力と雇用・賃金の維持が重視されます(⇔空洞化)。

Mercantilists, by contrast, emphasize the productive side of the economy. For them, a sound economy requires a sound production structure. And consumption needs to be underpinned by high employment at adequate wages.

Rodrikは、格差拡大や中間層の没落など、リベラリズムが限界に達していると指摘しています。

The liberal model has become severely tarnished, owing to the rise in inequality and the plight of the middle class in the West, together with the financial crisis that deregulation spawned.

ブラックストーンのStudzinskiも、ドイツをモデルに同様の主張をしています。

The first is what we might call the Mittelstand ethos – that business is a constructive enterprise that aims to be socially useful. Making a profit is not an end in itself: job creation, client satisfaction and product excellence are just as fundamental.

The second essential feature of the Mittelstand model is the collaborative spirit that generally exists between employer and employees.

政府が企業に賃上げを促す“mercantilism”的行動に反対することは、「企業の利益を損なう行為は絶対に認めない」「自分がよければ社会全体のことなど知ったことではない」というリベラリズムの信奉につながります。オバマ大統領の医療保険制度改革(Affordable Care Act; いわゆるオバマケア)を「政府の不当介入」と見做して徹底的に反対するアメリカ人のメンタリティとも重なります。

後知恵ではありますが、バブル崩壊+円高の二重苦に政府・日銀が対応できなかったことが、日本企業をリベラリズムによる自力救済に走らせ、結果的に「失われた20年」を招いてしまったと言えます(参考【「20年を失って」いなければ今でも世界第二の経済大国】)。少子化対策社会保障制度など、社会全体の視点に立った改革が急務ですが、その成功のためには、政府の介入を否定するリベラリズムのマインドコントロールを脱することが必要でしょう。[3] 

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

 「企業は,株主にどれだけ報いるかだ.雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

 「それはあなた,国賊だ.我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」

 94年2月25日,千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」.大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため,泊まり込みで激しい議論を繰り広げた.論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と,「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった.経済界で「今井・宮内論争」と言われる.

<中略>

 「終身雇用を改めるなら経営者が責任をとって辞めたあとだ」.「企業共同体」論に立って主張する今井に日産自動車副社長の塙義一らが同調した.生産現場の和や技術伝承を重視する経営者らだった.

 

[1]賃上げの必要性に関する記事

[2]グローバル化と賃金に関する記事

[3]リベラリズムと社会全体の損失に関する記事

*1:借入金を返済してマネーストックを減少させていることを意味します。

*2:家計消費の伸びの抑制と税収減→国債残高増加を意味します。

*3:海外への売り込みのバックアップなど、利益につながる「介入」は支持するところがご都合主義です。