読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

日本銀行批判と新自由主義

日本銀行の「量・質ともに次元の違う金融緩和」が昭和恐慌における高橋是清の政策のような劇的な効果をもたらしていないためか、日銀の金融緩和を不十分と批判する声が一部で再燃しているようです。*1

f:id:prof_nemuro:20131029143658g:plain

f:id:prof_nemuro:20131029143657g:plain

「超過準備積み上げ→予想インフレ率上昇」は錯覚に依存するので、顕著な効果が見られないことは日銀の不作為を意味しません。以前はデフレ継続を日銀の不作為の証拠と断定し、量的緩和で脱却可能と主張していた海外勢(バーナンキ他)も、自国も量的緩和をする事態に陥ると、量的緩和(中央銀行のバランスシート拡大)の景気刺激や予想インフレ率引き上げ効果が乏しいことを認めています。

…there’s no strong evidence that there are any increases in inflation expectations for that matter, … We want to be sure that there’s no misunderstanding, that there’s no effect on inflation expectations from the size of our balance sheet.

米英の量的緩和の分析も、これを裏付けています。

… the asset purchase programmes that were launched after the acute phase of the crisis were not associated with expectations of major future upward shifts in inflation. 

量的緩和の効果が薄れてきたとの指摘もあります。

外人に同調して日銀を金融緩和の量的不足で批判することが困難になったためか、最近では質的に不足しているとして、リスク資産(ETFとJ-REIT)の買入れ拡大(→価格釣り上げ)を要求する声も聞かれます。

しかし、信用不安鎮静化・リスクプレミアムの正常化のためのリスク資産買入れ*2は中央銀行のオペレーションの一環として正当化できますが、特に割安でもないリスク資産の買入れ・価格釣り上げは、一種の利益誘導になりかねない上、損失発生→中銀のバランスシート毀損につながる可能性もあり、正当化は困難です。

イングランド銀行の量的緩和は、下部組織の資産買入れ機構(Asset Purchase Facility)を通じて行われていますが、財務省による損失補償と、買入れ資産を高格付け資産に限ることが取り決められています。イングランド銀行に限度の無いリスクテイクを求める仕組みではありません。

The MPC sets a target for the stock of asset purchases financed by the creation of reserves. This target is achieved by purchasing or, in the event that the target is reduced, selling assets through the Bank’s ‘Asset Purchase Facility’, which, because of the financial risks posed to the Bank’s balance sheet, is indemnified by HM Treasury

The Government will indemnify the Bank and the fund specially created by the Bank of England to implement the facility from any losses asising out of or in connection with the facility.

Under this facility, the Bank shuld only purchase assets that are high quality and of equivalent standard to investment grade. The Bank's operations should conform with a risk control framework, that is agreed with the Treasury, to ensure that risks on assets purchased on this facility are managed appropriately.

日銀法も、株価対策が日銀の目的に合致するようには読めません。

日本銀行法

(目的)

第一条  日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。

2  日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。

(通貨及び金融の調節の理念)

第二条  日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。

(日本銀行の自主性の尊重及び透明性の確保)

第三条  日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。

仮に株価維持政策を実施するのであれば、以前のように政府が主体になるのが筋でしょう(あるいは英国のAPFに相当する機構を設置→日銀から資金調達→株式・ETF買入れ*3)。

1980年代以降、「小さな政府」を求める新自由主義の影響か、経済政策における政府の役割の矮小化と、その裏返しの中央銀行の万能視の傾向が強まりました。「1930年代の大恐慌において財政政策は効果が無かった」の定説化や、“Great Moderation”期における金融政策万能論・財政政策有害論*4の流行、あるいは「日銀はハインツケチャップを買え」がその例です。

本来なら政府の仕事まで日銀に要求する近年の日銀批判は、この思想の影響を受けているように思えます。中央銀行に不況の責任を負わせることができるので、政府にとっては好都合な思想です。

世界的金融バブルの崩壊と“Great Moderation”の終焉は、この思想の誤りを示したはずなのですが、いったん定着した思想は“die hard”なようです。

 

関連記事

 

[参考]


Quantitative Easing - How It Works - YouTube

*1:グラフから超過準備増加→インフレ率上昇の関係が読み取れるでしょうか?

*2:例:住宅バブル崩壊後のFedのMBS等の大量買入れ

*3:財務省による円売り介入(国庫短期証券を発行して資金調達→外貨買い)と似た仕組みになります。

*4:裁量的な財政支出は資源配分を歪めるので望ましくないため、ビルトインスタビライザーに任せておくべき