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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

政府と銀行に潰された日本企業の競争力~『不本意な敗戦 エルピーダの戦い』

日本半導体産業の崩壊と円高は無関係?】で取り上げたエルピーダメモリの坂本前社長の本が非常にためになるので紹介します。

不本意な敗戦 エルピーダの戦い

不本意な敗戦 エルピーダの戦い

技術力や生産性よりも円の過大評価が致命的であったことは、

 いま、1ドル=100 円弱の為替レートであれば、台湾のレックスチップよりも広島工場のほうが、DRAM1個あたりの製造コストが安くなっています。この水準がキープできるなら、日本で生産を続けても問題ないといえるでしょう。

 考えて見れば、これはすごいことです。人件費は広島工場が台湾の3倍以上、半導体生産コストの約1割を占める電気代も同じく2倍以上の差がありますが、こうしたハンディキャップを跳ね返すことができるほど、広島工場の生産性が高いのです。現場力というものは、日本企業が失ってはならない強みであり、財産だと思います。

という証言から伺えます。(現場力については下の本を。)

エルピーダは経営破綻後の再建において人員整理は行いませんでしたが、その理由の一つが、技術流出の防止です。

人員リストラした途端、人の流出と連動して、技術も流出してしまいます。これは経験的に絶対間違いのないことで、韓国企業や台湾企業は日本の電機メーカーのリストラのおかげでどれほど恩恵を受けたかわかりません。<略>日本の電機メーカーはリストラした分だけ弱くなっていきます。

円の過大評価→業績悪化→人員整理→技術者が韓国企業に転職→韓国企業の競争力向上、が日本企業の首を絞めたことは間違いありません。*1

銀行も日本企業の弱体化に一役買ったと指摘しています。

 銀行は企業に口うるさく迫り、人件費や間接費を削って借金を返させますが、必死になって借金を返した企業では、その後、はっと気づくと、優秀な技術者が社外に流出し、競争力を失ってしまっていた。そんな状況が起きているのではないでしょうか。<略>

 1990年ごろまでは、日本の銀行にも「企業を育てよう」という志があったと思いますが、いまはむしろ、銀行が、企業の長期的な競争力をそいでしまっているのではないでしょうか。日本の電機産業の地盤沈下がいわれますが、その背景には、こうした銀行の変質もあると思います。

「朝、会社に来ると、お茶を飲みながら新聞を読んでいる」仕事をしない(それを仕事と思っている)役員や、「経営のトップ層のスピードが信じられないほど遅いために、プランを考えた部下たちのやる気がなくなってしまう」という韓国企業社長の日本企業評などのエピソードも登場しますが、これらはエマニュエル・トッドソ連の停滞→崩壊の予言を思い起こさせます。

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

凡庸な者がソヴィエトの様々なヒエラルキーの頂点に頭角を現すのも、当然のことなのだ。知力に優れた者は規律と組織の長への服従とに嫌気がさしてやる気を失ってしまうからである。

他にも人材育成やエンジニアの処遇、経営者の仕事など、日本再生に必須の指摘・提言が溢れているので、一読をお勧めします。第5章「なぜ更生法適用申請に至ったか」と第6章「2つの勝ちパターン」だけでも読む価値があります。

アップルの緻密な購買政策や工場監査についても簡単に言及されていますが、それについては下の本と読み比べるのもよいでしょう。

アップル帝国の正体

アップル帝国の正体

*1:アメリカに気を使って円の過大評価を放置したら、韓国企業を利するだけだった、ということですが、日本人の「目の前の相手のことばかり考え、第三のプレーヤーへの影響を失念する」という弱点の反省は不十分と思われます。日中戦争も、第三のプレーヤー=アメリカの「扱い方」で中国に敗れたわけですが、さすがは『三国志』の国だけあります。