読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

米金融業界に倣ったソニーの失敗

NHK『メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオⅡ』が見落とした1993年のミッドウェイ】や【日本半導体産業の崩壊と円高は無関係?】では、「円高を業績不振の言い訳にするな」というメーカー批判に無理があると論じましたが、これはメーカーの経営方針に誤りはなかった、ということではありません。「意欲的な改革」に突っ走った挙句に泥沼にはまり込んだメーカーといえば、やはりソニーでしょう。 

ブルーオーシャンとコーポレートブランド (Mainichi Business Books)

ブルーオーシャンとコーポレートブランド (Mainichi Business Books)

ソニーは、大賀典雄社長時代までは、画期的な新商品を生み出してブルー・オーシャンをつくり出してきた。しかし、出井伸之社長時代以降、画期的なヒット商品が出なくなった。出井社長時代以降、執行役員制、社外取締役の活用、上場子会社の完全子会社化など、画期的な経営手法を導入していった。つまり、「画期的なことをする」というDNAは健在であるが、画期的な新商品が生まれなくなった。

「画期的な経営手法」とは、要するにアメリカ型経営手法のことで、その問題点については既に【アメリカの文化大革命「株主価値の最大化」】で考察しました。金融投資理論とエージェンシー理論をベースとした経営手法には、

  • 短期主義化
  • 事業金融商品のように扱う(簡単に売買・分解する)
  • 社外取締役はお友達→経営者が暴走しがち(社内の抑制力が減退)
  • 経営陣と従業員の間に溝

などの特徴があります。【政府と銀行に潰された日本企業の競争力~『不本意な敗戦 エルピーダの戦い』】では、エルピーダメモリの坂本前社長の言葉を紹介しましたが、韓国企業(特にサムスン電子)に恩恵を与えたメーカーの一つがソニーであることは常識です。

人員リストラした途端、人の流出と連動して、技術も流出してしまいます。これは経験的に絶対間違いのないことで、韓国企業や台湾企業は日本の電機メーカーのリストラのおかげでどれほど恩恵を受けたかわかりません。<略>日本の電機メーカーはリストラした分だけ弱くなっていきます。

弱くなったことについては膨大な記事が書かれていますが、素人でも分かるような経営判断ミスを続けています。

経営陣が短期的な利益にこだわり、事業の多角化を進めたことも没落の要因だ。1995年に最高経営責任者(CEO)に就任した出井伸之氏は、ハードウエアだけでなく、ソフトウエアにも強い会社を目標に掲げ、「ソニーの再創業」を宣言し、エンターテインメント分野に集中的に投資した。

また、「グローバルソニー」を叫び、米国式の社外取締役制度を導入し、事業部門を25社に分割した。経営陣が短期的な成果として評価する会社システムの整備を進めた結果、技術者は「ソニーはもはや技術企業ではなくなった」として大量に退職した。

<中略>

慶応大の柳町功教授(経営学)は「専門家が経営陣を務めた結果、短期的な収益性に執着し、技術開発というソニー創業時からのDNAを失っていった。オーナー経営体制のサムスン、LGなどがむしろ長期的な研究開発や集中投資でソニーを圧倒した」と指摘した。

パソコン事業の現役社員はダメになった理由をこう解説する。「(同事業のトップである)鈴木国正執行役が異動してきて、質より量を追うようになった。年1000万台の出荷を目指し、それまでのVAIOとかけ離れた安物を大量に作るよう指示された」。

2009年以降、新興国を中心とした海外へのPC事業の拡大を目指していたソニーだが、これはソニーが得意とする付加価値型製品の開発リソースを、低価格モデルへとシフトすることにもつながった。あるソニー関係者は、「仮に、最高峰のVAIO Zシリーズの後継機が出なかった理由はなにかと聞かれたら、それは開発リソースを高付加価値モデルに割けなかった点にある」と指摘する。

…そのほかのモデルは、中国や台湾のODMで生産している。これも世界で戦うために、低価格路線を目指した体質転換の結果によるものだが、この結果、ソニーの開発、設計と、製造現場の技術的な差が発生。開発した仕様で、製品が製造できないという問題が発生した。

ソニーの強みは、AV分野を中心とした「少々高価だが、マニア心をくすぐる商品開発力」であり、売却されるパソコンのVAIOも、"Video Audio Integrated Operation"、あるいは"Visual Audio Intelligent Organizer"だったはずなのに、DSDなどの他社にはないマニアックなAV機能はどんどん削減されていき、最後には「見た目は格好をつけているが、中身には特色がない高過ぎるパソコン」が季節ごとに多品種投入される事態になっていました。(最近のAV部門ハイレゾに力を入れるというちぐはぐぶりです。)

こだわりの一品を出すことで人気を博してきた高級レストランが、何を血迷ったか、ファストフード業界に降りてきて勝負を挑もうというようなものです。当然のことながら、台湾や中国勢にはコスト競争力で勝てず、以前からの客も失い、売却に追い込まれました。商品戦略は、アメリカの経営学に学んでいないことは確かです。

プレイステーションのように、モデル数を絞り、モデルチェンジの頻度も下げるアップル流を取っていれば、これほどの惨状にはならなかったのではないでしょうか。

今後はスマートフォンタブレット端末で勝負、ということですが、切り札を持たずにアップルやサムスンが固めた市場に特攻→玉砕にならないことを祈ります。

朝鮮日報

さらに問題なのは、ソニーが赤字脱却にばかりとらわれ、スマートフォン以降への準備ができていないことだ。柳町教授は「スマートフォン市場も今後成長が鈍化すると予想されており、ソニースマートフォンに勝負をかけることは理解できない」と述べた。

グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた

グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた

出足好調のプレイステーション4にも、ソニーの問題点が見えます。

"The biggest surprise for us all internally at Sony was; there were so many people who passionately reacted to our announcement that there's no MP3 support and DLNA support on day one," said Yoshida.

[…]

"We didn't really think about MP3 or DLNA. We always thought that we're going to do that eventually - we've been doing it with all the [PlayStation] products. So it caught us off guard. People don't really talk about these features but when we say we don't have it some people get really mad and [say], 'I cancelled the pre-order'."

PS3の売りだったAV機能やメディアサーバーとしての機能がなくなる*1ことに反発するファンが多いことに驚いたということですが、自分たちがコスト削減のために行った「PS3はゲーム機。それ以上でも以下でもない」という定義を顧客も共有しているとは限らないことに想像が及んでいなかったことになります。久夛良木ビジョンに乗った当初からのPS3ユーザーにとっては裏切り・顧客軽視と受け止められても仕方ありません。

アメリカの金融業界的発想を取れば、技術者のやる気・顧客の信頼や愛着は失われる(←何かを得るためには何かを失わなければならない)ことに気付いていなかっのであれば、「アホかこの○○は*2」と言われても仕方ないでしょう。もっとも、赤字のエレキを捨てて黒字の金融部門にコア事業を移すというのであれば論理的には整合していますが。コア事業を次々と変えながら150年を生き延びてきたノキアの例もあるので。

朝鮮日報

ソニーは最終的に製造業を放棄するのではないかという悲観論も聞かれる。ソニーは2013年4?12月の業績で、金融(1330億円)、音楽(422億円)の両部門だけでまとまった黒字を上げ、製造業は大半が赤字だった。

当時、「誤った意欲的な改革」をもてはやしたマスコミや有識者には総括してもらいたいものです。

 

追記

「私はソニーをやめる直前まで、アップルに対抗するためのビジネスを構築しようと必死になっていました。ところが、ある役員から『そんなことはやめてアップルに頭を下げてこい』と言われたんです。そのとき思わず、『あなたにはプライドはないのか』と聞き返しました。戻ってきた言葉は『プライドで会社が儲かるのか』。当時からすでにアップルの軍門に下るシナリオが進行していたということです」

ソニーに限らず、日本の上層部がこのようなメンタリティになってしまったことが、日本が停滞を抜け出せない理由の一つと思われます。明治維新や敗戦後の復興の時の日本人の気概はどこに行ってしまったのでしょうか。

下の記事もお勧めします。


“死に体”ソニーを救う「たったひとつのこと」

 

さよなら!僕らのソニー (文春新書)

さよなら!僕らのソニー (文春新書)

*1:今後、アップデートによる対応を検討中とのこと。

*2:by 忍