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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

慰安婦問題と『国際メディア情報戦』

政治・歴史・社会

朝日新聞が「慰安婦 =性奴隷」報道の一部を誤報と認めたことが話題になっています。*1

以前の記事にも書きましたが、この問題で日本が国際的に不利な立場に追い込まれた一因は、「慰安婦」の英訳を、誤解が生まれる余地のない"prostitute"や"sex worker"ではなく、英語の語彙には無い、すなわち誤解される余地のある"comfort woman"にしたことです。*2

高木徹は『国際メディア情報戦』などの著書で、ボスニア紛争セルビア(人勢力)が一方的悪役に仕立て上げられた背景に、ボスニア政府が雇った広告会社が"ethnic cleansing"(民族浄化)などのバズワードを繰り返したことがあったと指摘しています。

西成活裕が『誤解学』で

誤解学 (新潮選書)

誤解学 (新潮選書)

人間はあることが正しいと思いこむと、その反対の情報を無視したり、自分の意見を裏付ける情報のみを選択して集めてしまう、という傾向があることも知られている。

先入観は、他にも経験、教育、コンプレックス、差別などによって形成されていくものであり、さらに単純化や類型化をして物事を頭に格納すると人は落ち着くため、これがますます固定観念を強いものにしていくのだ。こうした曲解は無意識で行われることもあるし、何らかの目的のために半ば意図的に行われることもあるだろう。そして感情を伴うようになると根強い偏見へとつながっていく。*3

と書いていますが、感情に訴えかけるインパクトのある言葉を繰り返すことで、情報に接する人々に強固な先入観(色眼鏡)を植え付ける作戦です。人間には自分の感情を正当化しようとする心理的傾向があるため、いったんセルビアに対する嫌悪や怒りの感情が醸成されると、いくらそれに反する事実を提示しても国際世論は「聞く耳持たず」で、一方的なセルビア叩きに突き進んだということです。

慰安婦問題で第三国を敵に回さないためには、第三国の人々が否定的感情を抱かない説明不要の言葉に訳して先手を打って刷り込んでおくことが必要でした。下の記事で使われている合法的存在"prostitute"や"sex worker"を公式訳として刷りこんでおけば、「慰安婦制度は日本に特有の『悪』」という先入観・偏見が生まれる可能性は低かったでしょう。

しかし、ボスニア紛争の広告会社と同じ作戦に成功したのは、反日勢力でした。

猟奇的なイメージを掻き立てる"sex slave"というバズワードが大当たりして「"comfort woman"は"sex slave"の婉曲表現」という刷り込みが行われ、comfort womansex slave」と自動変換する思考回路が第三国人に形成されました。"Sex slave"という言葉への嫌悪感から、日本はセルビアと同じ「絶対悪」にされてしまったわけです。

「sex slave, sexual slavery 性的奴隷」は、「慰安婦」を指す言葉として、英語メディアでは広く用いられている。対して「comfort woman 慰安婦」は、引用符付きで用いられ、さらに説明も付記されることが多い*5。元来、ここで言う「奴隷」は、広い意味での強制性を指すための言葉だった。

しかも、誤ったイメージを払拭する努力をするどころか、日本人通訳まで"sex slave"と訳して「comfort womansex slave」の誤認を強化するのだから、ますます事態を悪化させるだけです。

例えば、橋下大阪市長の会見の時の慰安婦の英訳である“COMFORT WOMAN”と“SEX SLAVE”という言葉。これには賛否両論ありますから、とりあえず“COMFORT WOMAN”といった後に、さらに訳を付け足していきます。「これは欧米では“SEX SLAVE”などと訳されていますが、日本ではこういわれています」みたいなイメージです。そうやって聞いている方々の理解を全体的にレベルアップさせようとするわけです。*6

これでは、「慰安婦制度は連合軍の制度と類似したもの」と説明しても、「わが国には"奴隷"などいない(ふざけたことを言うな)」と返されて終わりです。

僕が慰安婦問題の発言をしたときにね、アメリカ軍やイギリス軍、ドイツ軍、フランス軍、韓国軍だって、いわゆる女性を利用していた、という話をしたときにね、"なに正当化してんだ"と。"他国がやったからといって自分たちが良いと言えるのか"と、これをさんざん言ってきたのが朝日新聞ですよ。

鈴木孝夫が大昔から主張していたように、発信力の欠如が「外交的敗戦」を招いたわけです。未だにそのことを理解せず、"comfort women"と英訳して世界に発信していることには脱力せざるを得ません。

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[参考]

"Sex slave"はこんなイメージにつながります。

Office Slave: Blackmailed by the Boss!

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The Sex Slave (XXX Erotica)

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*1:一部で譲歩するのと引き換えに、全体では主張を押し通す作戦ですが。

*2:大戦中のアメリカの調査報告に"comfort girl"と表現したものがありますが、これは「"ianfu"という耳慣れない日本語の直訳が"comfort girl"で、その実態はprostituteあるいは"professional camp follower"」という文脈で使われています。英語に該当する単語は"prostitute"なので、現在に"comfort woman"を用いることは一種の誤訳と言えるでしょう。

*3:強調は引用者

*4:経済苦から慰安婦になったことが「広義の強制連行」なら、現代のドイツやオランダで活動する売春婦も「広義の強制連行」の被害者です。ドイツ政府は売春婦の主な出身地の東欧諸国に謝罪が必要でしょうか。

*5:「引用符付きで用いられ」るのは、英語には元々存在しない造語だからです。なので、説明の付記が必要になります。その説明として"sex slave"が定着しているわけです。

*6:この通訳は、善意で反日プロパガンダを行っていることになります。