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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

「日本に期待しなくなった」輸出企業が意味するもの

アベノミクスの誤算の一つは、円安が輸出数量増加に結びついていないことです*1。「まだ十分な円安ではない」では説明できません。

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日本を滅ぼすリベラリズム】で紹介したロイターのコラムでは、その理由を「規模拡大より利益優先」への企業文化の変化ではないかと推測しています。

<規模拡大より利益優先>

これらはすべて、日本の企業文化の変化を示唆しているのかもしれない。人口減少と円高への備えとして生産拠点の海外移転を進めてきた日本企業の多くは、円安を単に思わぬ追い風ととらえている節がある。企業は国内での投資を拡大して攻めに転じるよりも、円安を当たり前のこととは考えず、現在の相場環境が続く間は高い利益率を享受しようとしている。

1970年代や80年代の楽観的な日本の経営者たちなら、円安を利益拡大のためだけでなく、自社の規模拡大にも使ったはずだ。

しかし、20年に及ぶデフレと少子化傾向にくわえ、株主重視文化の輸入もあいまって、今の日本企業は、むしろ欧米企業に近い行動を取るようになっている。つまり、円安による利益は規模拡大のために使うのではなく、ため込む方向にある。

株主重視文化以上に重要ではないか考えられるのが、輸出企業が「日本に期待し、日本で戦う姿勢」を失ったのではないかということです。

東日本大震災から半年後の2011年9月19日に、日産自動車のゴーン社長は、野田総理大臣(当時)に、以下のように要望していました。

総理には、今の状態が続けば、今後国内に新規プロジェクトを導入していくことが難しくなり、さらに日本をこれからも開発と生産の主要拠点として維持していくこともままならなくなるということをお伝えしました。今回の意見交換で、我々日本企業は(日本に)期待し(日本を)支持し、(日本で)戦う姿勢があるということを申し上げ、そのために最も深刻で重要な影響のある障壁すなわち超円高という逆風を取り除いていただきたいということをお願いしました。

ゴーン社長 野田新首相と円高について協議

しかし、「超円高という逆風」が取り除かれて1年以上が経過したにもかかわらず、輸出数量増加には結びついていません。明らかに、過去の相関とは乖離しています。

企業文化の変化を、日本を代表する輸出企業のトヨタ自動車に見てみます。トヨタの輸出台数は2003~2008年の円安期に年200万台→300万台に、国内生産台数も400万台→500万台に増加しました。

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その後、2008年9月のリーマンショックで急減→リバウンド→2011年3月の東日本大震災で急減→リバウンドして2012年には実質為替レートと整合的な水準まで回復しましたが、アベノミクス期待が高まり、円安が進み始めた2012年末からは逆に停滞に陥っています。

その主因と考えられるのが、海外生産の増加です。史上最長の景気拡大(円安景気)の初期には年200万台だった海外生産は、現在では600万台まで増加して国内生産を大きく上回っています。海外需要増加は海外生産増加で満たされる→輸出のために国内生産を増やす必要がない→国内生産は国内需要に合わせる→国内需要が増えないので国内生産も増えない、というのが現在進行している事態です。 

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ソニートヨタのさらに先を行っています。

2012年3月期は初めて、ドル/円について、1円の変動による営業利益への影響をゼロに抑えるまで円高抵抗力を高めた。 

「プラザ合意以来、打てる手は打ってきた。対策がいろいろある中でコストを現地通貨に合わせていく努力をしているが、ドルが均衡した一番大きな構造的な要因は、生産の海外シフトと部品調達の現地化を進めてきた結果だ。今期の海外生産比率は、ソニーの自社工場とEMSへの生産委託も含めて7割5分くらいになった。これでドルの感応度はゼロになった」

関連産業の裾野が広い自動車産業の空洞化が進めば、その負の波及効果は極めて大きいものになります。空洞化が進んだ電機産業は国際競争力を著しく失っています。

「絆」「がんばろう日本」「日本を取り戻す」などと言われていますが、リーマンショック東日本大震災で手痛い打撃を受けた日本企業からは、「日本をこれからも開発と生産の主要拠点として維持していく」気が失われつつあるように見えます。個々の企業にとっては合理的行動ですが、日本経済全体にとっては望ましくありません。ミクロとマクロの不一致です。

この行動原理の変化が意味するところは極めて重要です。輸出企業が実質円安に反応しなくなったことは、リフレによる景気回復のロジック「実質金利低下→投資促進」や「実質賃金下落→雇用増」も怪しくなることにつながるからです。

よく「名目賃金が上がらないとダメ」と言われますが、名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです。

海外という「逃げ場」のあるグローバル企業が、「日本で戦う」ことに本気になれなくなっても不思議ではありません*2。日本再興には、企業を背水の陣で「日本に期待し、日本で戦う姿勢」にする“mercantilism”が必要ではないでしょうか。*3

*1:筆者も想定外でした。

*2:国民軍の一員と思っていたら、金で動く傭兵に転向していたようなもの。

*3:企業活動の自由を至上とするリベラリズム信奉者は絶対に賛同しないでしょうが、その先にあるのは「グローバル企業栄えて国滅ぶ」です。