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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

成長戦略より再建戦略を

アベノミクス 経済記事ピックアップ

外国為替市場で1ドル=108円台後半まで円安が進んでいます。もっとも、対ウォンや実効為替レート(円インデックス)では、既にそれ以上の円安となっています。

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一方、18日発表の財務省貿易統計(8月速報)によると、輸出数量は依然として停滞しています。

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そのため、貿易収支は大幅な赤字が続いています。鉱物性燃料の赤字拡大と、その他の収支の黒字縮小が響いています。

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17日に国土交通省から発表された建設総合統計(7月分)では、未消化工事高が2009年以降で最高の28.3兆円(民間11.6兆円+公共16.7兆円)になったことが話題になっています。


公共工事の未消化16兆円 発注増と人手不足で過去最高:朝日新聞デジタル

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アベノミクス第一の矢の金融政策では、円安→輸出増が効果の一つとして期待されていましたが、現時点では貿易赤字拡大の逆効果となっています。第二の矢の財政政策も、供給制約のために大幅な追加は難しいと見られます。このことは、供給力強化の構造改革が、特に製造業と建設業で必要なことを示唆しています。

この二つの産業は、「失われた20年」における衰退が特に著しかった産業でもあります。製造業の就業者数は、1992年のピークから2013年にかけて530万人減(-34%)*1、建設業は1997年のピークから2013年にかけて186万人減(-27%)です。他の産業の就業者数合計が2013年まで増加を続けていることとは対照的です。

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裏を返せば、この二つの産業を衰退させるような環境が続いたことが、「失われた20年」の本質ということです。

では両産業の再建ですが、製造業では、為替レートが現状あるいは若干円安水準で安定するという予想を定着させ、生産を国内回帰させることが重要です。

下の記事で述べたように、円の為替レートは、1985年のプラザ合意後、慢性的過大評価と大きな上下動(ヨーヨー円)が続いたため、製造業はコスト競争力と為替リスク回避のために、海外移転(→空洞化)を積極的に進めました。


日独財政の違いを生んだ為替レート変動 - Think outside the box

製造業の海外移転が問題であることは、伊東光晴が18年前に指摘していました。

「経済政策」はこれでよいか―現代経済と金融危機

「経済政策」はこれでよいか―現代経済と金融危機

中小企業までが海外投資による海外生産と国内生産のバランスとリンケージを企業経営の中心に置くようになった。このようなことを生みだしたのは、円高と90年代の景気政策であったと言ってよい。

このことは…有効需要の減少を意味する。…こうした民間企業の行動を放置して財政に支援を求めても効果が生まれない。


超円高に挑む:海外生産75%でドルのリスク相殺=ソニー | テクノロジーニュース | Reuters

――今期はドル/円の為替変動の影響をゼロに抑えたが、どんな取り組みが成果を上げたか。 

「プラザ合意以来、打てる手は打ってきた。対策がいろいろある中でコストを現地通貨に合わせていく努力をしているが、ドルが均衡した一番大きな構造的な要因は、生産の海外シフトと部品調達の現地化を進めてきた結果だ。今期の海外生産比率は、ソニーの自社工場とEMSへの生産委託も含めて7割5分くらいになった。これでドルの感応度はゼロになった」

個々の企業にとってはソニーのような行動は合理的ですが、マクロ的には望ましくありません。日本は食料とエネルギーを輸入に頼らざるを得ないので、それらと交換するために、製造業が貿易黒字を稼ぐ必要があるからです。国内生産・輸出能力の増強が不可欠です。

円の過大評価はほぼ是正されたので、企業の関心は水準から安定に移っています。

自動車部品メーカーのエクセディの清水春生社長は「安倍政権と黒田総裁のおかげで製造業が苦しんでいた円高を安定した為替レートにしていただいたことをまず御礼申し上げたい」とした上で、「黒田総裁へのお願いとしては、現状の為替レートを維持、安定して頂ければということであります」と述べた。

他の先進国通貨のように狭いレンジ(±15%程度)で安定推移するとの見通しを定着させることが、国内生産・輸出能力増強の鍵となります。

建設業では、2000年代に公共投資が「無駄遣い→削減することが経済にプラス」とされたことが致命的でした。

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投資を半減した結果、インフラの維持が懸念される事態になってしまいました。橋が落ちるアメリカを笑えません。

今後の投資総額の伸びが2010年度以降対前年度比±0%で、維持管理・更新に従来どおりの費用の支出を継続すると仮定すると、2037年度には維持管理・更新費が投資総額を上回る。2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費(約190兆円)のうち、約30兆円(全体必要額の約16%)の更新ができないと試算している。

為替レートと同じで、建設業の再生には、公共事業が安定的に発注されるという見通しを定着させることが重要です。

なお、ドイツでもインフラ劣化が問題になっているようです。


Low German Infrastructure Investment Worries Experts - SPIEGEL ONLINE


America’s crumbling infrastructure: Bridging the gap | The Economist

結局のところ、製造業の海外シフトと公共投資削減が「改革」であるかのような1990年代半ばからの空気(狂気?)が、日本経済の「打ち壊し」に寄与したわけです(大躍進政策?)。失われた大量の雇用と生産力は一朝一夕には回復しませんが、回復させなければ日本経済の再興もありません。絵に描いた餅のような「成長戦略」よりも、地道な製造業・建設業再建に注力すべきではないでしょうか。

 

[参考]

アベノミクスの理論的支柱とされる浜田宏一内閣官房参与)も、第三の矢・成長戦略に軸足を移すよう主張しています。内容は違いますが。


内閣官房参与・浜田宏一氏直撃インタビュー 消費税より法人減税を主戦場に (1/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK


アベノミクスは成長戦略に注力を、2年・2%こだわらず=浜田参与 | Reuters

浜田氏は、今後のアベノミクスの展開について「第1、2の矢から第3の矢に軸足を移し、第3の矢を真面目に追求すべき局面」とし、成長戦略に注力すべきとの認識を示した。 

*1:1992年がピークだったのは、1993年からクリントン大統領による円高誘導が始まったためです。

*2:国土交通省ポジショントークであることも考慮は必要ですが。