Think outside the box

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株主価値最大化と「狂信的な発想」

下の記事では、1970年代後半からのアメリカ発の「企業の目的は株主価値の最大化唯一つ」という思想が、経済格差拡大や過少投資など様々な問題の原因だとする意見を紹介しました。


アメリカの文化大革命「株主価値の最大化」 - Think outside the box

一部の経済学者が考えた「狂信的な発想」が世界を支配していることが、経済の諸問題の原因ではないかということです。

経済学者や政治哲学者たちの発想というのは、それが正しい場合にもまちがっている場合にも、一般に思われているよりずっと強力なものです。というか、それ以外に世界を支配するものはほとんどありません。知的影響から自由なつもりの実務屋は、たいがいどこかのトンデモ経済学者の奴隷です。虚空からお告げを聞き取るような、権力の座にいるキチガイたちは、数年前の駄文書き殴り学者からその狂信的な発想を得ているのです。

ハーバード・ビジネス・レビュー9月号では、Lazonickが"Profits Without Prosperity"という論文で、このことを詳しく論じています。HBRは有料ですが、その要旨はLazonickによるNYTへの寄稿に示されています。


To Boost Investment, End S.E.C. Rule That Spurs Stock Buybacks - NYTimes.com

Forbesの記事では、内容が詳しく紹介されています。Lazonickがキーポイントとして指摘しているのが、自社株の買戻しです。


HBR: How CEOs Became Takers, Not Makers - Forbes

株主価値最大化(MSV)の思想の浸透と、CEOの報酬の大部分をストックオプションにして株価と連動させるようにした結果、CEOは利益を投資ではなく自社株の買戻し(share buybacks)に優先的に振り向けるようになりました。本来、自社株買いは株価が安い時に行うべきですが、実際には株高時に増えています。CEOの報酬が増えるためで、そのために自社株買いによる株価の釣り上げも行われています。

Thus between 2003 and 2012, publicly-listed firms in the S&P 500 used a colossal amount of their earnings—54 percent or $2.4 trillion—to buy back their own stock. The article reveals that this wasn’t done for the most part when stock prices were low: astonishingly, most of the big purchases came when the stock price was high. Why? “Because stock-based instruments make up the majority of executives’ pay, and buybacks drive up short-term stock prices.” These firms are engaged, the article says, in “what is effectively stock-price manipulation.”

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1970年代後半までは、利益を再投資するとともに従業員の人材育成を重視する"retain-and-reinvest"が主流でしたが、1970年代以降は利益を株主に配分するとともに従業員を「コスト」見なす"downsize-and-distribute"に変化しました。企業の行動様式が大転換した結果、様々な経済的・社会的問題が生じています。格差拡大はその一つです。

The consequences of these share buybacks are an economic, social and moral disaster: net disinvestment, loss of shareholder value, crippled capacity to innovate, destruction of jobs, exploitation of workers, runaway executive compensation, windfall gains for activist insiders, rapidly increasing inequality and sustained economic stagnation.

共産主義が多くの人を不幸にしたように、MSVも多くの人を不幸にした(している)ということでしょう。ケインズの「経済学者や政治哲学者たちの発想というのは、それが正しい場合にもまちがっている場合にも、一般に思われているよりずっと強力なものです」という言葉の通りです。MSVの思想が普及した経緯については、下の記事が詳しいです。起源はFriedmanです。


The Origin Of 'The World's Dumbest Idea': Milton Friedman - Forbes

バブル崩壊後、1980年代にこの思想にかぶれた人たちによって、"The World's Dumbest Idea"に基づく「改革」が推進されたことが、日本経済の迷走の一因のように思えます。未だに推進中のようですが。

The Shareholder Value Myth: How Putting Shareholders First Harms Investors, Corporations, and the Public

The Shareholder Value Myth: How Putting Shareholders First Harms Investors, Corporations, and the Public


Corporate Governance - What do shareholders really value? (LECTURE ONLY) - YouTube

↑ 講演の最後を、ケインズの"Practical men, who believe themselves to be quite exempt from any intellectual influences, are usually the slaves of some defunct economist."の引用で締めくくっています。