Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

消費者は嬉しい日本のサービス業の低生産性

文部科学省の審議会に冨山和彦委員が提出した資料が話題になっています。

下のような論理展開です 。

  • Gの世界とL の世界:経済特性、産業構造が大きく異なる2つの経済圏の存在
  • Lの労働力不足を解消するためには、「労働生産性≒賃金」の持続的上昇が必須
  • しかしながら日本の生産性は、欧米諸国と比較しても低水準
  • 分野別に見ても、ほぼ全ての分野で生産性が低いことがわかる(対米比)
  • Lの世界の生産性を向上させるためには、L型大学における「職業訓練の展開」が必要

「日本のサービス業の生産性は低い→生産性向上のためにL型大学を職業訓練の場に」という主張です。

その参考資料がこちら。

労働生産性水準で見ると建設が対米比8割半ば、TFP水準で見ると金融・保険が米国と同程度、建設が対米比9割と、米国に拮抗する生産性水準を示す産業も存在するが、卸売・小売、飲食・宿泊等、多くの非製造業はTFPで見て対米比5割程度の水準にある。*1

ただし、非製造業においては、サービスの質の差異が十分には反映されていないおそれもあるため、ここでの結果はやや幅を持って見る必要がある。

「日本のサービス業の生産性は低すぎる」は、改革論者がミスリード狙いで用いる常套句です。

生産性が低いとは、付加価値(=価格-費用)が小さいことを意味しますが、これには二つの可能性があります。

  1. 生産性が低い→費用が高い
  2. 価格が低い

「生産性が低い」という批判は1.が正しいとしたものですが、海外に出掛けた日本人の多くが疑問に思うのが、外国の飲食・宿泊等のサービスの費用対効果(日常感覚としての「生産性」)が高く感じられないことです。*2

この疑問はもっともなものです。Globalの世界の貿易財(主に製造業)では、裁定が働くため同じ財・サービスはほぼ同じ価格になります(一物一価)。しかし、Localの世界の非貿易財(主にサービス業)では裁定が働かないため、同じ財・サービスの価格が各国の国内事情で決まります。そのため、Gに比べたLの価格が相対的に割安な国では、サービス業の生産性が低く算出されてしまいます。

たとえば、2012年の購買力平価換算の1人当たり"expenditure on health"はアメリカが日本の2.4倍(8745ドルと3649ドル)*3ですが、この差の相当部分は、アメリカの医療サービス価格の高さで説明できます(医師の報酬や薬剤などの費用も高い)。アメリカの医師の診療能力が日本の医師の2.4倍もあるわけがないので、アメリカ人は割高な医療サービスを「買わされて」いる、あるいは医師、医療機関、製薬メーカー等に「貢いでいる」ことになりますが、これがアメリカの医療サービスの生産性の高さとなって表れます。*4

日本のサービス価格が相対的に割安な一因は、賃金が低下しているためです。*5

2011年3月2日の衆議院財務金融委員会における白川日本銀行総裁(当時)の発言

日本とアメリカのインフレ率の違いというものを過去十数年間分析してみますと、九割方が財ではなくてサービスでございます。

サービスの値段がなぜ下がっているかということ、もちろんいろいろな要因がございます。そのうちの一つの要因として、サービスというのは、これは御案内のとおり、労働集約的な活動が多いということで、賃金の影響を大きく受けるわけでございます。

財に比べたサービス価格が割安になる傾向は、デフレの前から続いています。

f:id:prof_nemuro:20141024223133g:plain

消費者の立場では、日本は「良質なサービスをリーズナブルな価格で受けられる国」ですが、生産者の立場では、「外国ではもっと高く売れるサービスを安値で提供しなければならない国」ということです。競争が激しいことが、消費者にはプラス、生産者にはマイナスに働いています*6。日本のサービス業労働者が外国に比べて怠けているわけではありません。

サービス業の生産性の国際比較には注意が必要です。

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

totb.hatenablog.com

www.businessinsider.com

*1:[引用者注]アメリカは相対的に金融・保険が不得意で、卸売・小売や飲食・宿泊が得意ということになります。日本人には不自然に感じられるはずですが、これは小売や飲食が日本よりも雑なサービスに割高な価格を設定できることの反映です。

*2:最近のアメリカやオーストラリアでは、ファストフードも日本人の感覚では「ぼったくり価格」に上昇しています。

*3:OECD Health Statistics 2014

*4:もう一つの代表的専門サービス職である弁護士の報酬も、日本人の感覚では著しく割高です。

*5:賃下げ→値下げのスパイラル。

*6:行き過ぎるとブラック職種になります。