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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

法人税減税&消費税増税と戦前回帰

アベノミクス

安倍総理大臣は昨日の記者会見で、消費税増税法人税減税の方針を改めて示しました。

浜田宏一内閣官房参与がそのロジックを説明しています。


安倍首相のブレーン浜田宏一内閣官房参与に聞く「消費増税と法人税引き下げの行方」 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 

今回は法人減税が(議論され)国際競争あるいは国際ゲームの中に組み入れられている。法人税を下げるのは産業界、財界のためだけではなくて国民経済のために重要だと思います。

ーーーそこで法人税の話に移りたい。「消費増税と法人減税はセットであるべきだ」というのが先生のお考えなのでしょうか。

浜田:「セットにする」という結果になるかもしれません。

英国が下げようとしているのは、法人減税が効くからに違いない。

まず法人減税で投資が増えてくるし、その後で日本経済の供給能力が増すような改革になる。[…]

ーーー日本経済の供給力を高めるためにも、法人減税が必要だと。

浜田:まさに、そのために必要なのです。

最近の英紙のインタビューでも同内容を語っています。


'Godfather' of Abenomics: Japan's sales tax hike must be delayed - Telegraph

He also called on the Japanese government to offset any future sales tax hikes with big reductions in Japan's corporation tax rate to regain competitiveness.

“In the long run, I advocate gradual increase in consumption tax to offset a reduction in corporation tax because this is too high.

“This used to be the case in the United Kingdom too, but since it has been cut to 21pc, many firms have returned to Great Britain.

“I’d like to return the corporation tax rate to the early twenties. In Singapore, it is 17pc. Maybe we shouldn’t compete with Singapore, but I think we can compete with the UK.”*1

外国との「競争」が強く意識されています。

「法人減税が効くからに違いない」とされている英国ですが、法人税減税は経済成長促進に効果的ではない、という反論もあります。


British Politics and Policy at LSE – The corporation tax is under attack. It must be defended 

If stimulus is your recipe for growth, then, cutting corporate taxes is the least effective option. As the U.S. Congressional Budget Office noted in a 2008 report: “The most effective types of fiscal stimulus (delivered either through tax cuts or increased spending on transfer payments) are those that direct money to people who are most likely to quickly spend the bulk of any additional funds provided to them. . . . a cut in corporation taxes is not a particularly cost-effective method of stimulating business spending.”

引用されている米議会予算局(CBO)のペーパー"Options for Responding to Short-Term Economic Weakness"では、法人税率よりも需要見通しが生産を左右することが、減税の費用対効果が小さい理由として挙げられています。*2

The most common form of a general cut in business taxes is a reduction in the corporate tax rate. This approach, however, is not a particularly cost-effective method of stimulating business spending: Increasing the after-tax income of businesses typically does not create an incentive for them to spend more on labor or to produce more, because production depends on the ability to sell output.  

ShaxsonやFTのWolfは、浜田のロジックのベースにある「国と国との競争」「国の競争力」という概念そのものをナンセンスとしています。

Think about it like this: When a company cannot compete it goes bust and another, better one, takes its place. For all the pain involved, this ‘creative destruction’ weeds out bad firms and is a source of capitalism’s dynamism. But what do you get if a country cannot “compete?” A failed state? As Wolf, again, puts it, “the notion of the competitiveness of countries, on the model of the competitiveness of companies, is nonsense.”

There is no clear empirical link between corporate tax rates and true economic competitiveness either.

国際比較では、法人税率と1人当たり経済成長率に正の相関は見出せません。


Correlations: High Corporate Taxes, Economic Growth Can Coexist - Businessweek

税の専門家は、「法人税率引き下げ→経済成長」をファンタジーと評しています(ラッファー・カーブは不滅)。


British Politics and Policy at LSE – Arguments linking a lower corporation tax to increased productivity and growth have no basis in reality 

Economic theory has moved on a bit since Laffer scribbled out his notions on a hotel napkin in the 1980s. Sadly, politicians remain wedded to the fantasy that tax cuts will encourage investment and boost revenue yield in the long run. Evidence suggests that this has no basis in reality.

浜田理論は、

  1. 家計が実質賃金低下や消費税増税などで負担増を引き受ける⇔企業が法人税減税などで負担を軽減される
  2. 身軽になった企業が生産や投資活動を活発化する(はず)
  3. 経済の「パイ」が拡大する(はず)→家計の分け前も増える(はず)
  4. 分け前増が負担増を上回る(はず)

すなわち、「家計は“損して得取れ”」というものです*3。実際、昨年1月時点では、名目賃金を据え置き、実質賃金を下げよと主張していました。


浜田宏一・内閣官房参与 核心インタビュー「アベノミクスがもたらす金融政策の大転換インフレ目標と日銀法改正で日本経済を取り戻す」|論争!日本のアジェンダ|ダイヤモンド・オンライン

よく「名目賃金が上がらないとダメ」と言われますが、名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです。

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とはいえ、家計(労働者)はいつまで実質賃金低下を耐えればよいのでしょうか。増えている雇用も、非正規の低賃金職が中心です。("no basis in reality"?)

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法人税減税で経済活性化」がファンタジーだとすれば、消費税増税法人税減税は、中間層以下が「蹴落とされる」結果に終わりかねません。

もっとも、政策の真の意図が労働者階級を豊かにすることではなく、階級社会の復活≒戦前回帰にあるとすれば、cost-effectiveであることは確かです。

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

ケインズ理論の主たる帰結は、もちろん景気後退期における国家による投資であるが、それより目に付きにくいが構造に関わるものだけにより重要な帰結は、自国の労働者階級を豊かにすることが得策であるという考えを西側ブルジョワジーが受け入れた、ということである。経済発展期における労働者の賃金の持続的上昇は、消費の規則正しい上昇をもたらし、それが生産の総体を吸収する。まことに単純な理屈であったが、それに考えを及ぼす必要があった。と言うよりむしろ、労働者の富裕化という観念にプロレタリアートの怠惰という観念を結びつけていたヴィクトリア朝的偏見を、克服する必要があったのだ。第二次大戦後の西側諸国の経済発展の根源は、このことの自覚にある。ケインズがその理論を発表したのは1936年であるが、ブルジョワジーの心性をその偏見から解放したのは、ナチズムと第二次大戦の経験であったことは、認めなくてはならない。

はしごを外せ―蹴落とされる発展途上国

はしごを外せ―蹴落とされる発展途上国

良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)

良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)

*1:強調は引用者。以下同。

*2:短期と長期の違いがあることに留意が必要ですが。

*3:「100万円儲けたければ、まず50万円を支払ってください」という手法に似ているように思えます。