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ミルトン・フリードマンというブラック・スワン

ブラック・スワン」は、大きな衝撃を与える予測不能な事象の意味でタレブが使った言葉です。キリスト教イスラームも、その後の世界史を変えたブラック・スワンの典型例です。

キリスト教が地中海沿岸を席巻し、その後西欧全体を覆う宗教になるなんて誰が予測しただろう?

ユダヤの異端にしか見えない男の言うことを本気にして、こいつは後世に名を残すべきかもしれないなんて思った大物歴史家は、どう見てもほとんどいなかったのだ。

その七世紀後に現れた競合する宗教のほうはどうだっただろう? 馬にまたがった連中が、ほんの数年で、インド大陸からスペインまで帝国の領土を拡げ、イスラム法を広めるなんて、誰が予想しただろう?

ところで、現在の先進国では、経済格差拡大と永続停滞(secular stagnation)が懸念されていますが、これも、ブラック・スワンの結果と言えないこともありません。そのブラック・スワンとは、ミルトン・フリードマンが提唱した「株主価値最大化」です。

金融・投資に関して非常に鋭い本質的な考察を行ってきたMontierが、株主価値最大化という'the world's dumbest idea'について考察しています。


Shareholder Value Maximization: The World’s Dumbest Idea? | European Investment Conference

Montier labeled shareholder value maximization, the way Jack Welch, the former CEO of GE, had once described it in 2009, as “the dumbest idea in the world.”

フリードマンによる'dumbest idea'が広まる前は、企業は雇用に責任を持つべきという観念*1が理想とされていたのが、株主価値最大化の思想に染まった後は、利益拡大のために従業員を搾取することが正しいとされるようになってしまいました。

Montierは、株主価値最大化の思想が、格差拡大と経済停滞の原因(の一つ)である可能性を指摘しています。

  1. 投資率の低下(→成長率低下)
  2. 経済格差拡大(←ストックオプションによる報酬の激増)
  3. 労働分配率の低下

Smithersも同様の指摘をしています。

The Road to Recovery: How and Why Economic Policy Must Change

The Road to Recovery: How and Why Economic Policy Must Change

先進国の経済社会が混迷する一因は、フリードマンの'idea'が世界を支配するようになったことではないでしょうか。*2

"It is actually amazing how many of the bad ideas in economics stem from one man - Milton Friedman."*3

クルーグマンは婉曲に表現していました。

… Friedman’s key contributions to macroeconomics look hard to defend.

そうだとすれば、もし'bad ideas'の創造主フリードマンがいなければ、今日の世界は相当違ったものになっていたでしょう。*4

Montier believes that our world would have looked different if instead of maximizing shareholder value and enriching themselves with exorbitant and problematic incentives, those managing companies were required to focus on running their businesses, producing quality goods and services, treating customers and workers fairly, and creating shareholder value as a by-product, not as an objective.

雇用、利子および貨幣の一般理論〈下〉 (岩波文庫)

雇用、利子および貨幣の一般理論〈下〉 (岩波文庫)

経済学者や政治哲学者の思想は、それらが正しい場合も誤っている場合も、通常考えられている以上に強力である。実際、世界を支配しているのはまずこれ以外のものではない。誰の知的影響も受けていないと信じている実務家でさえ、誰かしら過去の経済学者の奴隷であるのが通例である。虚空の声を聞く権力の座の狂人も、数年前のある学者先生から〔自分に見合った〕 狂気を抽き出している。

…, the ideas of economists and political philosophers, both when they are right and when they are wrong, are more powerful than is commonly understood. Indeed the world is ruled by little else. Practical men, who believe themselves to be quite exempt from any intellectual influences, are usually the slaves of some defunct economist. Madmen in authority, who hear voices in the air, are distilling their frenzy from some academic scribbler of a few years back. *5


GMO's Montier: Maximizing Shareholder Value Is The World’s Worst Idea - Business Insider


Income And Wealth Inequality Charts - Business Insider


アメリカの文化大革命「株主価値の最大化」 - Think outside the box


株主価値最大化と「狂信的な発想」 - Think outside the box


世界経済の長期トレンドに関するGoodhartの論考 - Think outside the box


法人企業統計~企業の慎重姿勢が続く - Think outside the box

*1:昔ながらの経営スタイルを守るJohnson&Johnsonは、Credoに"We are responsible to our employees, the men and women who work with us thoroughout the wolrd.…"と謳っています。

*2:日本企業の行動が「増益でも人件費・設備投資抑制」に変化した一因は、株主価値最大化の思想の浸透と思われます。

*3:強調は引用者、以下同。

*4:中央銀行と金融政策の過大評価(全能論)にもフリードマンが貢献しています。

*5:'scribbler'は「へぼ作家」や「三文文士」、「書き散らす人」の意。