アメリカで格差是正の動きが鈍い理由の一つに、「貧困層出身ながら、努力で成功を掴みとった人の存在」があります。「必ず成功の道はある」という観念が、格差是正を「悪平等」と否定してしまうわけです。
しかしながら、個々の成功例は、その他大勢の見本になるわけではありません。集団としてみれば、持って生まれた初期条件の差は歴然としており、社会の上層の子は上層に、下層の子は下層になる傾向があります。平々凡々に生まれた人が、上流階級に属する親の子として頭脳明晰・身体頑健・容姿端麗に生まれた人に勝つことが困難であることは、「人間には生まれつきの差はない」というイデオロギーに憑りつかれていなければ分かることです。
日本の総人口はトンガやフィジーをはるかに上回りますが、ラグビーでは勝てないのは、持って生まれた初期条件=体格差を超えられないためです。短距離走でジャマイカ人、長距離走でケニア人に勝てないのも同じことです。
個々の成功例を強調することは、持って生まれた初期条件の差(ハンディキャップ)を見落とすことにつながります。
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ということで、この記事です。
なぜ地方は補助金をもらっても衰退するのか | 地方創生のリアル | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
ズバリ、地方創生に必要なのは「おカネそのもの」ではなく、「おカネを継続的に生み出すエンジン」なのです。
問題は、日本全体での「おカネ」は有限であることです。日本全国の地方がエンジンを整備しておカネの獲得競争に乗り出せば、必ず勝者が出現する反面、多数の敗者が生まれます。敗者は結果的に「無駄なカネを使った」だけであり、黙って補助金に頼っていた方がよかったことになりかねません。。
そもそも、都会は地方に比べて地の利や有形・無形の資産蓄積があるため、ハンディキャップ無しで競争すれば、全体としては都会の圧勝になることは避けられません*1。重量級と軽量級のボクサーが殴り合うようなものです。もちろん、アメリカン・ドリームを実現する人のように、例外的に成功する地方はありますが、それを一般化することはできません。
ギリシャが頑張ってもドイツ経済についていけないのと同じで、多くの地方も東京についていくことは不可能です。その埋め合わせが補助金です。「補助金をもらっても衰退する」のは何ら不思議ではありません。
いい加減、「努力すればなんとかなる」という欺瞞は止めて、「努力には限界がある」という現実を直視するべきではないでしょうか。*2

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すべての国は何らかの財について比較優位を持つのである。しかし、多くの地域はせいぜい数種類の財・サービスについてのみ絶対優位を持つという主張はまさに正しい。その結果そういう地域は多くの人口を引き寄せたりそれを維持したりすることはできない。
国は常に何かの財について比較優位を持つことができるが、地域がどの財についても絶対優位を持たず、したがって嗜好や技術の変化によってある地域の人口が大幅に減少することはあり得る。
ある地域がいくつかの産業を失うと、他の産業にとってもその地域は魅力のないものになり累積的な衰退プロセスにつながる。

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