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格差拡大は自然現象

経済格差が拡大するメカニズムについて、ピケティの"r>g"が話題になっていますが、「繰り返しによる統計的な力」による説明も可能です。

矢野和男『データの見えざる手』では、以下のシミュレーションによって「繰り返し」が格差を生じさせることを説明しています。

  1. 30×30の碁盤上のマス目を設定する。
  2. 72000個の玉を900のマス目にランダムに配分する(→1マス当たり80前後にほぼ均等になる)。
  3. ランダムにマス目を二つ選んで、一方から他方に玉を1個移す。これを10万回繰り返す。
  4. 上位3割のマス目に7割の玉が集中する偏りが生じる。 

我々は、物事には原因があると考えがちだ。「富める人には、そうではない人とは何か行動に違いがあるはずだ」と結果の背後に原因を追究したくなる。しかし実際には、多数のやりとりがあると、確たる原因がなくとも特徴的な偏りが生まれる。資源(この場合は玉)の分配が偏るのは、決して能力や努力によるものではなく、「やりとりの繰り返し」による統計的な力であることは忘れてはならない。実社会では、自然に生じるこの配分のばらつきに加え、能力の差もあるためにさらに貧富の差が拡大するのだと思われる。

これは、過去記事で紹介した気体分子のエネルギー分布から得られるインプリケーションと同じです。


鬱病を増やす「神の見えざる手」 - Think outside the box

経済学関係の資料によれば、分子系を社会、分子を人、運動エネルギーを金に置き換えると、先の議論がそのまま成り立つという。つまり、「平等な確率で人に金をばらまき、平等な確率で金のやり取りをしても、しばらくすると、一部の人に金が集中し、残りの大多数は貧乏になる」のが社会の実態なのだそうだ。

経済活動(カネのやり取り)の結果、格差が生じることは「自然現象」ということですが、人間が気体分子と異なるのは、カネ(エネルギー)を保持する意思と能力を持つことです。

気体分子の場合、高エネルギー分子と低エネルギー分子が固定化される「格差」は生じません。

瞬間瞬間を取れば、一部の分子がエネルギーを独占しているのだが、「おごれる分子も久しからず」、エネルギーは別の分子に移っていく。

しかし、人間の場合、適切な資産管理を行うことでエネルギーの独占を続けることが可能です。また、現実の経済活動は、過去の実績とは無関係にカードが配られるポーカーよりも、過去の実績がポジティブフィードバックする大富豪/大貧民に似ているので、親から有形・無形の資産を多く継承した人ほど有利になります。気体分子とは異なり、時間が経過するほど「持てるものの優位」が累積されて格差が拡大していくということです(マタイ効果)。*1

The Matthew Effect: How Advantage Begets Further Advantage

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大沢流 手づくり統計力学

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物理学者のYakovenkoによると、所得階層は「熱力学的平衡」状態にある下位97%と、非平衡の上位3%に二分されており、上位はロングテールの分布をしています。このテールが伸びることが格差拡大を意味します。

So, the data analysis of income distribution in the USA reveals coexistence of two social classes. The lower class (about 97% of population) is characterized by the exponential Boltzmann–Gibbs distribution, and the upper class (the top 3% of the population) has the power-law Pareto distribution. 

They found that the exponential distribution in the lower class is very stable in time, whereas the power-law distribution of the upper class is highly dynamic and volatile. They concluded that the lower class is in thermal equilibrium, whereas the upper class is out of equilibrium.

テールの伸びに寄与するのが、「負のカネ=負債」です。カネの総量が10の系に7の負債を投入すると、「エネルギー保存則」により、ネットでは10のままですが、グロスでは17に増加します。この7を所得上位層がゲットすることでテールが伸びます。

The money flowing to the upper tail was coming from the growth of the total debt in the system.

負債の拡大が経済格差を拡大させているということになりますが、実際のデータはそれを裏付けています。1980年代以降の富裕層減税や金融の緩和スタンス・金融規制緩和(→負債増加)が、経済格差拡大を促進したことになります。新自由主義は必然的に格差拡大と階層の固定化を招くということです。

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新自由主義的な政策を続けて階層が固定化した停滞社会への道を進むか、ピケティが指摘するように、カネの偏在を是正して「下剋上」の活気に溢れた社会への道を進むか、第二次大戦で一旦リセットされた世界各国は、重大な分岐点に差し掛かっているようです。


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*1:太陽系の形成過程で、無数の塵が重力によって少数の天体(惑星等)に凝集していったようななもの。