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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

金融・財政政策よりも構造改革

2014年に実質ゼロ成長に落ち込んだ日本経済を追加金融緩和and/or財政出動によって刺激せよという意見があります。 

しかしながら、日本銀行の量的・質的金融緩和の有効性への疑問が高まっていることや、財政悪化への懸念から、有効な金融・財政政策が実施されるとは限らない状況です。

追加金融緩和支持者には、

gendai.ismedia.jp

一九九八年に新日本銀行法が施行されて以降、次章でも示すように、日本経済は世界各国のなかでほとんど最悪といっていいマクロ経済のパフォーマンスを続けてきた。主な原因は、日本銀行の金融政策が、過去一五年あまり、デフレや超円高をもたらすような緊縮政策を続けてきたからだ。*1

のような認識を持つ人が多いようですが、史上最長の景気拡大が始まった2002年以降、リーマンショック後の短期間を除くと、日本経済は失業率を低下させるペースで成長を続けており、金融政策and/or財政政策が緊縮的であったとは考えにくいでしょう。*2

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とはいえ、多くの人には「日本経済は比較的好調だった」という実感はないでしょう。その主因は、2002年~の史上最長の景気拡大期以来、雇用者報酬が相対的に低迷していることです。

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脇田成は、企業が賃金を抑制して巨額の内部留保を積み上げていることがマクロ的な問題を生み出していると以前から主張しています。河川の上流(企業)のダムの貯水量を増やしたために、下流(家計)が干上がっているようなものです。*3

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

現状は、事実上、株主にも労働者にも帰属せず、かといって経営者がさほど高給を取っているわけでもなく、また契約が不完備であるからでもなく、ただ巨額の内部留保を漫然と積み上げている状態がマクロ的に問題なのです。

企業の内部留保が高まるだけでは、家計に所得は回らずマクロ経済のジリ貧傾向が強まります。

10兆円の賃上げは大きなマクロ効果を持ちますが、企業貯蓄に回れば自己資本比率を0.5%上昇させるに過ぎません。 

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1990年代半ばから人件費が停滞する一方で、2000年代からは企業利益・配当金・内部留保(社内留保)が急増しています。*4

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企業が内部留保から数兆円を人件費に回せば、財政出動しなくても家計には大きなプラスとなります。無意味に多い貯水量を減らして、昔のように放水するだけのことです。

日本経済の成長率そのものは決して低くないにもかかわらず、停滞感や先行き不安が蔓延している根底には、企業が儲けを家計に還元することを渋るようになった結果、経済システムの好循環が止まっていることにあります。「国民を豊かにすることが経済システムの均衡・持続に不可欠」という大局観が失われ、経営者が「守銭奴」脳になったことが、「成長しているのに停滞感」を生んでいるわけです。これは日本に限らず、"Secular Stagnation"に陥った先進国に共通します。

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

ケインズ理論の主たる帰結は、もちろん景気後退期における国家による投資であるが、それより目に付きにくいが構造に関わるものだけにより重要な帰結は、自国の労働者階級を豊かにすることが得策であるという考えを西側ブルジョワジーが受け入れた、ということである。経済発展期における労働者の賃金の持続的上昇は、消費の規則正しい上昇をもたらし、それが生産の総体を吸収する。

両大戦間時代には病み衰えていた資本主義は、1945年から、規則的な発展率を回復した。過剰生産の問題に対する解決策は単純だったが、ただしだれかがそのことを考える必要があった。つまり、労働者はより多く消費すべきである、ということである。それ以降、勤労者の生活水準の進歩は、システムの均衡にとって不可欠なものであることが認められた。

脇田の主張する「内部留保を賃上げへ」には、以下のような反論がありますが、

blogos.com

blogos.com

一つ目はフローの話をストックにすり替えており、反論になっていません。*5

二つ目は賃上げが空洞化を招くというものですが、賃金が低下しているのは製造業ではなく非製造業です。非製造業の多少の賃上げで空洞化が促進するとは考えにくいことです。

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そもそも、現在の製造業のコスト競争力は歴史的低水準にあります。

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大戦後の西側ブルジョワジーが受け入れた「構造改革」、あるいは1990年代の構造改革によって破壊された戦後レジームへの(部分的)回帰こそ、今の日本に必要ではないでしょうか。*6

http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0222080/js/another01.html 

「企業は,株主にどれだけ報いるかだ.雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

「それはあなた,国賊だ.我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」

「これまで企業が社会に責任を負いすぎた.我々は効率よく富をつくることに徹すればいい」という宮内のドライな発言に今井が鼻白む場面もあった.

95年,一足先に同友会代表幹事になった牛尾は「市場主義宣言」を掲げ,その後,新自由主義政策を進める小泉内閣の参謀役を務めた.「日本型経営は90年代で終わった.競争で活力を再燃させ競争力を再武装してから,次の経営思想をつくりあげていこうと思った」と牛尾は言う.

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

toyokeizai.net

totb.hatenablog.com 

totb.hatenablog.com

*1:強調は引用者、以下同。

*2:消費税率引き上げは除く。グラフからは、アベノミクスの顕著な効果は見出せないことにも注意。

*3:あるいは死海アラル海のような状況。

*4:人件費減・配当増は経済格差拡大につながります。

*5:詳しくは『賃上げはなぜ必要か』第4章を参照。

*6:究極的には、製造業の現地生産志向の反転が必要でしょう。