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内部留保と設備投資に関する考察

安倍政権が企業に賃上げや設備投資増を求めていることを厳しく批判する記事がありました。

www.huffingtonpost.jp 

甘利経済再生相は「過去最高の原資があるのに、投資しないのは重大な経営判断の誤り」とまで言及したという。内部留保を過剰に貯め込むな、という話のようだ。

これには二つの間違いがある。一つは「内部留保」という名目の現金があると思い込んでいること、もう一つは日本企業はすでに内部留保の1.6倍も設備投資を行っているという間違いのない事実だ。

内部留保=現金、という勘違いはそろそろ卒業してほしいと思うが、問題は企業が積極的な設備投資を行っているにも関わらず、それを政府が理解していない事だ。*1

甘利内閣府特命担当大臣が本当に「理解していない」のかを、内閣府のwebサイトに掲載されている「未来投資に向けた官民対話」第1回の会見要旨から判断してみます。

産業界の代表者の方々から、産業界の投資動向と課題を伺いました。ポイントを御紹介申し上げます。 

まず、経団連からであります。

「…アベノミクスで企業業績が回復し、内部留保も拡大をしているけれども、実は経済界にも言い分があり、海外へのM&A等に向かっている部分がある、あるいは海外の設備投資もある」というお話でありました。

続いて、経済同友会からです。

「…企業の内部留保は拡大をしているが、海外投資が増え、国内投資が伸びていない。 

まず、世界最大の機関、ブラックロックからです。

「…日本企業の中にはリスクを避けて、内部留保を必要な投資に回していないところがある。経営者が中長期ビジョンを示し、成長投資を行う必要がある。また、海外M&Aだけでなく、国内の事業再編も必要である。

続いて、日本取引所から。

アベノミクスの効果により企業収益は過去最高水準である。投資については、海外M&A投資が伸びている一方で、国内での設備投資が少ないことが課題だ。

続いて、出席委員、閣僚からです。麻生副総理からの発言です。
「企業業績の回復に伴い、内部留保が拡大しているが、設備投資は伸びていない

これらを受けて、甘利大臣は次のように総括しています。

今日、いろいろ問題点が明らかになりました。内部留保が350兆円ある。だけれども、いわゆるM&A投資や海外設備投資には向けているのです、国内投資は弱いけれども、という話でありました。

ただし、企業収益が増えている中で現預金が20兆円ぐらい増えています。国内設備投資は5兆円ぐらいの増加でした。まさか海外設備投資は現預金等には含まれていないはずであります。現預金が20兆円増えて、設備投資は5兆円しか増えていないということは、M&Aをやっています、海外設備投資をやっていますということだけでは説明がつきません。ここで設備投資が弱いということは明白です。現預金が積み上がっていることが事実ですから、その差を埋めていく、背中を押していきたいと思っております。

甘利大臣は「国内設備投資が弱い結果として現預金が増えている」「内部留保は海外のM&Aや設備投資に向かっている」と認識していると読み取れます。政府が「内部留保=現金」という勘違いをしていると決めつけた批判はストローマンということです。政府関係者は中嶋やその知人が考えるほどバカではないでしょう。

知人からは、政治家の経済オンチは昔からの話で、現金と内部留保の違いもろくに教えられないブレーンしか身近にいない方がよっぽど問題ではないか、という指摘を受けた。

次に、企業の国内設備投資の水準について、財務省「法人企業統計調査」を用いて検証します。参考のため、名目GDPの推移のグラフを先に示します。

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単純化して

とします。 フローの内部留保(社内留保)の累積が、ストックとしての内部留保利益剰余金です。

2014年度末の利益剰余金は354兆円で1998年度末比+223兆円です。現金・預金は+52兆円、投資有価証券(主に株式)は+194兆円です。1990年代末以降「海外M&A投資が伸びている」ことや、現預金の増加がリーマンショック以後の現象であることが確認できます。

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設備投資と内部留保等のフローの推移です。設備投資>内部留保となっています。

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ここから、

平成26年は内部留保が約24兆円に対して設備投資額は約40兆円と、1.6倍もの額を投じている。

すなわち「企業が積極的な設備投資を行っている」との主張になっているわけですが、内部留保に対する設備投資の比率は1980年代以降で最低水準です。「1.6倍もの」と言うより「1.6倍しか」設備投資をしていません。単純に考えれば「設備投資が過少 and/or 内部留保が過大」です。

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また、

内部留保は「資金の調達方法」である。

とのことですが、資金調達先としての内部金融は、内部留保だけでなく減価償却費も含みます。内部留保減価償却費の計(キャッシュフロー)と設備投資を比較すると、1990年代末からキャッシュフローが設備投資を上回り続けています。

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日本銀行資金循環統計では、これは非金融法人企業部門資金余剰として表れます。それと表裏一体なのが政府部門資金不足(財政赤字)です。1998-2014年度平均の資金過不足の対GDP比は、非金融法人企業部門が+5%、一般政府部門が-6%です。

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企業の負債が大きく減少する一方で、政府の負債は激増しています。

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国内設備投資の弱さは、財政赤字という形で日本全体の問題になっているわけです。産業界も国内設備投資が弱いことを認めているにもかかわらず、

設備投資に至っては経営判断に株主でも経営者でもない人間が口をはさむ話ではない。これは法律ウンヌンの話ではなく常識レベルの話だ。

という主張は理解困難です。*2

結局のところ、政府は「内部留保=現金」という勘違いをしている、という事実誤認からスタートするので、トンチンカンな結論に至ってしまうということでしょう。

こういったトンチンカンな話は元をたどると「内部留保=現金」という勘違いに必ずたどり着く。

背理法のようなものです。

totb.hatenablog.com

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*1:強調は引用者、以下同。

*2:公共の福祉のための政府の介入を認めないリバタリアンの発想のようです。