エマニュエル・トッドが「日本で唯一の問題」と指摘していた低出生率に対して、
日本で唯一の問題は出生率であると私は言った。
東京に来るたびに、日本人は完璧なまでに見事に少子高齢化という「衰退」を楽しんでいるかのように感じる。過去10年、少子化問題が騒がれている割に、少しも変わっていない。
日本の完全主義で大半の問題はうまくいっているが、出生率だけがうまくいっていない。
ついに安倍総理大臣が「果敢にチャレンジする」決意を示しました。
長年、手つかずであった日本の構造的な課題、少子高齢化の問題に果敢にチャレンジする。そう決意いたしました
第2の的は、希望出生率1.8の実現です。それに向かって夢をつむぐ子育て支援という第2の矢を放ちます。結婚したい、子供がほしい。一人一人のこうした願いがすべてかなえられれば、それだけで出生率は1.8へと上昇します。これが希望出生率1.8の目標であり、2020年代半ばまでに実現しなければならないと考えています。
リベラル派の批判(言い掛かり)に及び腰になっていた歴代政権とは異なり、出生率引き上げの重要性と決意を明確にした姿勢は大いに評価できます。

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しかし、その目標が実現する可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。一人一人の希望こそ、低出生率の原因だからです。
学校の授業でダンスのために男女のペアを作らせることを想像してください。タイムリミットを設けずに「好みの相手を見つけてペアになれ」という指示を出せば、いつまでたっても相当数の男女がペアを作れずに残ることは容易に想像できるでしょう。全員をペアにするためには、教師が圧力をかけて生徒の希望を封印(妥協、我慢)させる必要があるわけです。
出生率低下の主因である非婚化も同じです。下の記事に示したように、生殖面での相手選びにおいては、女が男よりも高いハードルを設定しています。
そのため、結婚成立には、
- 女の高いハードルをクリアできるだけのリソースが男に備わっている
- 女がやむを得ずハードルを引き下げる理由がある
のどちらかが必要となります。
男女雇用機会均等以前の日本社会がほぼ「皆婚」で出生率1.8を達成していたのは、1と2の条件が実現していたためです。(事の良し悪しは別として)その条件を崩したことが、非婚化と少子化の引き金になったわけです。安倍政権が推し進める「女性が輝く」政策は、そのトレンドを反転させるよりも、むしろ延伸するものです。
政府が作成した「ストップ少子化・地方元気戦略」では、
とされていますが、これを現実的と考える人はほとんどいないでしょう。
そもそも、「一人一人が願いを叶えられる社会」が非現実的であることは、
- 全員が希望部署に配属された会社
- 全員が希望のポジションで希望通りにプレーする集団スポーツチーム
を実現できないことを考えれば明らかでしょう。
また、
- 就職希望者全員が希望した企業に就職できる
- 企業は希望した人材を採用できる
があり得ないことも明らかです。「1億総活躍」には反するようですが、希望ではなく妥協こそ、社会の安定と持続に必要です。

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ゆとり教育の失敗の一因は、「圧力をかけなければ勉強しない子」への手当てが不十分だったことですが、

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有馬前文部大臣が新聞で言われていたけれども、「もとから勉強する気がない子にゆとりなんか与えたら大変なことになる」と。それはその通りですよ。いまの高校生の多くに何の手当てもせず単純に「ゆとり」のカリキュラムを与えたら大失態ですよ。
少子化問題も同じで、個々人の自由を尊重した結果、圧力をかけなければ結婚しない(できない)人たちが取り残されてしまったことにあります*1。そして、その人たちは「自業自得」と切り捨てるには多すぎます。
この困難な問題に対処しない限り、安倍首相の
50年後も人口1億人を維持する。これを明確な国家目標として掲げます。
の目標は達成できず、日本社会は衰退を止められないでしょう。

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おまけ

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日本の将来は「長いさよなら」かと考えていましたが、「大逆転」のシナリオの可能性が高まってきたようです。
*1:お見合いの減少も一因。