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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

米欧二つの"Great Migration"

政治・歴史・社会

アメリカとヨーロッパ諸国の違いの一つに「国民皆保険制度の有無*1」があります。皆保険を支えるのは「国民相互の助け合い」の精神ですが、アメリカでは白人と黒人の溝が深かったことが、皆保険が成立しなかった一因とされています。*2

ところで、第二次大戦後の西ヨーロッパ諸国にはアメリカのような「統一されたヨーロッパ」を求める動きがエリートを中心に存在していますが、戦後のアメリカにあってヨーロッパになかったものといえば「黒人」です。

話を進める前に、アメリカの黒人について振り返ります。

アメリカで南北戦争が起こった背景には、北部と南部の経済・社会構造が大きく異なっていたことがあります。

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)

アメリカ大陸の東部におけるこのような地域差は、どこから来たのか。17世紀から18世紀に移る頃のこの地域を見ると、すでに、明白な違いが見える。 

ニューイングランドと南部植民地の決定的な違いは、「タバコ」という世界商品があったか、なかったかにかかっていることは、言うまでもない。*3

世界商品の存在しなかったニューイングランドには、大規模なイギリス資本は投下されず、したがって「低開発化」も進行しなかった。つまり、ニューイングランドは、いわば「未開発」であったからこそ、むしろ独自の自立的な発展の可能性が生じたのである。これに対して、ヴァージニアには、大量のイギリス資本が投入され、タバコのモノカルチュアと外部から導入された「非自由労働」という「低開発化」の諸条件が、すっかりそろってしまったのである。

北部はヨーロッパ諸国と同様の近代的な白人社会に発展した一方、南部はアフリカや中南米、アジアの植民地のようになっていきました。戦争時には、ヨーロッパの「本国」と「植民地」に相当する地域が、アメリカ一国の中に並存していたわけです。

「白人に酷使される植民地の人々」に相当する黒人は、奴隷解放後も大部分は南部に居住していましたが、第一次世界大戦の頃から"Great Migration"と呼ばれる北部への大移動を開始します(~1970年)。その原因はいろいろありますが、一つは北部の産業界が低賃金労働者を求めたことです。*4

世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠

世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠

インディアナ州ゲイリーで暮らしていたときのわたしは、自分が資本主義の黄金期にいるなどとは思っていなかった。[…]ヨーロッパ全域からの移民を集めるこの街は、進歩的な学校制度の影響もあって人種のるつぼと化していた。しかし、わたしが生まれた1943年には、るつぼの亀裂が目に見えはじめていた。最新技術に後押しされた生産性向上の果実を、労働者たちと分け合いたくない大手鉄鋼会社は、スト破りをさせるため、こぞって南部から労働力を導入してきた。人種隔離環境下で貧しい生活を強いられていたアフリカ系アメリカ人たちを……。

奴隷制度や人種差別に反対するリベラルと、低賃金労働者を求める産業界が「黒人welcome」で一致していたわけですが、この構図は途上国から大量の移民・難民を受け入れるヨーロッパと同じです*5。「賃金奴隷を求める本音をリベラルな建前で隠す」ことを、フランスの国民戦線のルペン党首は批判しています。

www.asahi.com

――でも、労働力として移民を求めたのはフランス自身ですよね。財界の要請でしょう。

「確かに、指摘された通りです。給料を下げるために、40年にわたって移民を利用してきたのです。今、そのツケをみんなが払わされている。許せません」 

www.sankei.com

ルペン氏は「ドイツは自国の人口が伸び悩んでいると考え、低賃金の労働者を求め、大量の移民受け入れを通じて奴隷の雇用を続けている」と演説した。

www.reuters.com

結局のところ、先祖が植民地で行っていた「現地人を使役する」ことを、自分たち(特にエリート)もやりたかったのでしょう*6。掃除や子供の世話すら"dirty work"と感じるヨーロッパ人のエリートの感覚は、日本人には理解し難いものがあります。

移民の時代

移民の時代

移民や彼らの子どもたちの多大な貢献がなければ、誰が我々のオフィスを掃除し、ゴミを回収し、家を建て、ビルの清掃を引き受けるのであろうか。自動車の組み立てや造船現場はどうなるのであろうか。誰が大型スーパー・マーケットのレジ係や小規模店舗の店番を引き継ぐのであろうか。誰が我々のレストランの厨房を切り盛りするのであろうか。[…]さらには、誰が我々の子どもの面倒を見るのであろうか。また、我々の病人の看護や、在宅であろうが、高齢者施設であろうが、高齢者の世話をするのは誰であろうか。

自分たちがやりたくないdirty workをやらせる「下層市民、奴隷階級」を大量に受け入れたヨーロッパが、アメリカのような格差社会に近づくことは必然と言えるでしょう。

異民族(移民・難民)差別を制度化すれば、エリートの夢であるヨーロッパ統合が近づくかもしれませんが、さすがにそれは無理でしょう。

アパルトヘイト南アフリカには、自由主義的・民主主義的ルールにしたがって申し分なく機能する平等な市民の集合体があったのだけれども、その自由や民主主義は被支配者たちが存在するという条件でのみ成立していた。

人種差別時代のアメリカと同じだ。アメリカでは、白人グループ内の平等が、アメリカ原住民および黒人に対する支配によって保障されていた。 

www.telegraph.co.uk

totb.hatenablog.com

*1:オバマケアは日本やヨーロッパ諸国の「皆保険」とは異なります。

*2:イギリスでは1948年にNational Health Service(NHS)が成立したように、大戦が国民の一体感を強めたといえます。

*3:[引用者注]タバコの後には綿花が主力に。

*4:戦争特需が発生する一方で、ヨーロッパからの移民が減少したため、低賃金労働力が不足した。

*5:アメリカでは国内で完結していた"Great Migration"が、ヨーロッパでは旧植民地から本国への"Great Migration"として生じていると見做せます。

*6:ヨーロッパのエリートは、本音を建前で隠すことが得意です。