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なんだったんだ?岩田理論(とリフレ派)

日本銀行マイナス金利政策で明らかになったのは、量的・質的金融緩和の根拠となっていたいわゆる「岩田理論」が、リフレ派にもまったく理解されていなかった/あるいはあっさり放棄されたという衝撃の事実です。

まずは、量的・質的金融緩和に関する岩田副総裁のロジックを改めて確認します。*1

市場参加者の予想インフレ率が上昇するのは、日本銀行が2%の物価安定目標の達成を強く約束し、その目的達成のために民間に供給するお金(このお金は現金と金融機関が日銀に預けている当座預金の合計で、「マネタリーベース」と呼ばれます)の量を大幅に増やし続ければ、将来、銀行の貸出等が増え始め、その結果、世の中に多くの貨幣(貨幣とは現金と預金の合計です)が出回るようになる、と市場参加者が予想するようになるためです。将来、貨幣が増えれば、その貨幣の一部が物やサービスの購入に向けられるため、インフレ率は上昇するだろう、と予想されるわけです。

ここで重要なことは、銀行の貸出等を通じた貨幣の増加が現に起こっていないとしても、将来の貨幣の増加を見越して、予想インフレ率の上昇が起こり得るという点です。*2*3

「日銀がいくらマネタリーベースを増やしても、金融機関による貸出残高は増加していない。これは政策効果が出ていないことを示しているのではないか」とのご指摘を頂くことがありますので、これについての私の考えを改めてご説明させて頂きます。

デフレが続くと、中小企業を含めた多くの企業が現預金の保有を増やし、資金余剰主体になります。実際、15年近いデフレが続く中で、企業は設備投資を抑制して、現預金を積み上げてきました。その結果、企業の現預金保有残高は約230兆円と、GDPの50%近くにまで達しています。このため、デフレからの脱却が始まってからしばらくの間は、運転資金や設備投資のための資金が手持ちの現預金でまかなわれるほか、好転した企業のキャッシュフローが借入金の返済にあてられるため、金融機関の貸出は必ずしも増加しません。貸出が本格的に増え始めるのは、内部留保では在庫投資や設備投資の資金をまかないきれなくなってからです。*4

日銀がマネタリーベース(具体的には日銀当座預金の超過準備)の量を大幅に増加し続ければ、銀行貸出の増加を伴うことなく予想インフレ率の上昇と支出増加が起こる、というものです。

日銀は、主に銀行から国債を買い入れることで当座預金残高を増やしています。銀行の資産の中の国債を日銀当座預金に置き換えれば、貸出が増加しなくても予想インフレ率が高まる、というのが「岩田理論」です。

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「岩田理論」に従えば、銀行に求められるのは、日銀の国債買入オペ に応じて国債を売り渡すことです。代金は当座預金口座に積み上がります。

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ところが、マイナス金利の導入決定後、リフレ論者から「銀行は日銀から供給されたカネを当座預金口座に置いたままで貸出に回さない→だからインフレ好況にならない」との声が相次いで上がっています。下はその一例です。

www.news-postseven.com

高橋:マイナス金利導入は、日銀が銀行に、お前たちもっと仕事しろということ。日銀が買いオペで国債を取り上げたら銀行は当座預金に回したので、今度は当座預金から利息を取り上げて、逆に手数料を払わせてカネを外に出させることにした。

  • 日銀が銀行の資産の国債を買い入れて資金を供給する(→日銀当座預金)
  • 銀行は供給された資金を日銀当座預金から貸出に回す

という二段階が想定されているようです。図示すると下のようになります。

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これが「岩田理論」とは別物であることは明白です。また、日銀当座預金が貸し借りされるのは短期金融市場を構成する(日銀に当座預金口座がある)金融機関の間です。日銀が短期金融市場に供給し続ける資金は、各金融機関の当座預金口座に積み上がるだけで、銀行貸出として「外に出ていく」ことはありません*5。企業や家計に貸し出される「預金」は、銀行が信用創造するもので、日銀が短期金融市場に供給する資金とは別物です。

準備預金は、銀行の対企業融資の原資を提供するのではなく、日銀勘定にじっと留まったまま、銀行間決済の場、日銀による金利操作の舞台、という役割を務めるもの。

マクロの全銀行組織(信用創造機構全体)をとって考察する時には、あくまで「銀行が貸せば、というより貸す時にのみ、それと見合いに預金ができる」という、事の本質・論理を見失ってはなるまい。

岩田副総裁が「筋違い」という批判をリフレ派がするようになるとは、一体どうなっているのでしょうか。

shuchi.php.co.jp 

「超過準備は無駄である」と断定するのは早計ではないでしょうか。 

「銀行の超過準備がいくら増えても、企業への貸し出しは増えていない」との批判はまったく筋違いといえるでしょう。

おそらく、予想が外れたことの責任転嫁でしょう。銀行はリフレ派のスケープゴートに仕立て上げられたわけです。

totb.hatenablog.com

参考

量的・質的金融緩和開始直後のリフレ派の見通しの一例

岩田さんと黒田さんとスティグリッツさんの話

断言しましょう。大変な好景気がやってきます。バブルを知らない若い世代は、これを見てビビって目を回すでしょう。

次の総選挙は、消費税引き上げ後の多少の混乱を乗り越えたあとの、絶好調の好景気の中で迎えることになります。

直近の記事によると、松尾も「銀行は中央銀行から供給された資金を企業等に貸し出す」と考えているようです。

新著『自由のジレンマを解く』紹介/サンダースとスティグリッツのマイナス金利論

日銀が、民間銀行の預けているおカネにプラスの利子をつけたのは、2008年のリーマンショックのあと、一時やめていた量的緩和(金融緩和のすごいやつ)を復活してからです。私はなんでこんなことするのかわかりませんでしたけどね。当時は白川さんの時代でしたけど。

中央銀行が、民間の銀行が預けているおカネに利子をつけていることを批判しています。こんなことをしたせいで、量的緩和でジャブジャブおカネを出しても、そのまま民間の銀行が中央銀行の口座に預けたままにしてしまって効果が殺がれてしまったと言っているのです。

日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)

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リフレは正しい アベノミクスで復活する日本経済

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totb.hatenablog.com

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付録

誤った「解説」が後を絶ちません。

thepage.jp

日銀の当座預金から、貸し出しなどの形で市中にお金が出て行く必要があるのですが、今のところ思った程の効果を上げていません。現在、マネタリーベースを200兆円ほど増やしているものの、当座預金も170兆円ほど増えており、差し引き30兆円程度しか、市中に出回っていません。*6

このような誤解が世間に蔓延することは望ましくありません。日銀や銀行は、誤解を正すために積極的な啓蒙活動を行うべきではないでしょうか。

*1:引用元は日本銀行のwebサイト

*2:強調は引用者、以下同。

*3:「量的・質的金融緩和」の目的とその達成のメカニズム~中央大学経済研究所創立50周年記念公開講演会における講演(2013年10月18日)より

*4:最近の金融経済情勢と金融政策運営~宮崎県金融経済懇談会における挨拶(2014年2月6日)より

*5:預金者が預金口座から現金を引き出せば「外に出て」いきますが、預金と現金の総量(マネーストック)は不変です。

*6:[引用者注]この数字は不正確です。量的・質的金融緩和開始前月の2013年3月と2016年1月を比べると、マネタリーベースは+220兆円、うち現金+13兆円、日銀当座預金+207兆円です。