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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

トランプ現象とリベラル政党の変質

アメリカの大統領予備選挙では、共和党のトランプ、民主党のサンダースの両候補が、プロの事前予測を裏切る快進撃・大健闘を続けています。その背景には、エリートに対する庶民の不満があると分析されています。"1% vs 99%"の構図です。

一般的には、共和党が1%の金持ち側で、リベラルな民主党が(どちらかと言えば)99%の側とされているようですが、格差拡大傾向は大統領が共和党でも民主党でも大差ありません。

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Thomas Frankは新著の"Listen, Liberal"で、民主党が労働者の味方ではなくなり、上位10%の"professional class"あるいは"creative class"(知的専門職階級≒“頭のいい”人たち)のための親ウォールストリート・親シリコンバレー政党に変質したことがその背景にあると分析しています。

Listen, Liberal: Or, What Ever Happened to the Party of the People?

Listen, Liberal: Or, What Ever Happened to the Party of the People?

"Professionals," …, are an enormous and prosperous group, the people with the jobs that every parent wants their child to grow up and get. In addition to doctors, lawyers, the clergy, architects, and engineers―the core professional groups―the category includes economists, experts in international development, political scientists, managers, financial planners, computer programmers, aerospace designers, and even people who write books like this one.

Professionals are a high-status group, but what gives them their lofty position is learning, not income. They rule because they are talented, because they are smart.*1

クリントン夫妻もオバマアイビーリーグの出身であるように、政治家の多くは"professional class"と名門大学の同窓なので、自然に「クラスメイトのための政治」を志向するようになってきたというわけです。 

ビル・クリントン大統領の、

が、民主党が労働者階級よりも知的専門職階級のための政治を志向していることを象徴しています。

知的専門職階級の「自分たちは優秀なので報われて当然」との観念は、経済的には「強者を助け、弱者を挫く」ネオリベラリズムにつながります。リベラルとネオリベラルは同じ穴の貉です。

www.nytimes.com

When they look at inequality, they see not economic failure but individual failure, usually having to do with education, a subject of pious reverence for the professional class. You’re falling because you didn’t study hard enough or you didn’t go to a good school or you majored in the wrong subject. 

jbpress.ismedia.jp

ネオコンという言葉はすでに使い古された感があり、ケーガン氏は昨年「リベラル干渉主義者*2」と呼ぶ方が適切であると述べている。

フランクのアメリカについての分析は、エマニュエル・トッドのフランスについての分析とほぼ同じです。

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)

トッドによると、フランスの生産年齢人口は

  • 企業主0.1%(富裕層全体で1%弱)
  • 上流中産階級(管理職及び知的上級職)17%
  • 下流中産階級(中間職)25%
  • 庶民層57% 

に分類されますが、単一通貨ユーロや自由貿易を支持する傾向が強い中産階級の影響力が強まっているということです(上流中産階級が"professional class"にほぼ相当)。

そうとも、フランスでは福祉国家が今日も生き延びている。しかし、それはまず、中産階級福祉国家になったからなのである。[…]フランスにおいては、中産階級イデオロギー的権力を握っているということにほかならない。 

現代フランスのネオ共和主義システムを支配しているのは、経済システムの危機にまださほど苦しんでいない中産階級である。この中産階級はフランス流の「福祉国家」の掌握権を手中に収め、産業と労働社会層*3を犠牲にすることを受け入れた。

ネオリベラル化した中産階級の犠牲になっている労働者階級は、エリートに敵視される「極右」の国民戦線(FN)を支持するようになっています。

権力も金銭も持っていない、弱者たちがFNの選挙民の大半です。生産年齢の若者と労働者が高い率で極右支持層にいるのです。 

これはトランプ候補の支持率が高い構図と同じです。エリートはトランプやルペン支持者を「頭が悪い*4」「差別主義者」と批判しますが、トランプやルペン人気の本質は庶民のエリートへのプロテストと見るべきでしょう。ネオリベラリズムに染まったエリート=腐敗したカトリック教会、ポリティカル・コレクトネスに異議を唱えるトランプ/ルペン=ルター/カルヴァンといったところでしょうか*5

"Professional class"を養成する米欧のエリート大学は、各国のエリートに自国の庶民よりも他国のエリートを同胞と見做す選民意識を植え付ける機関となっているようにも見えます*6。米欧のエリートがヨーロッパ統合、NAFTA、TTIP、TPPなど、自国の庶民よりも他国のエリートのための経済政策を推進する根底には、カネだけではなく思想的なものもあるのでしょう。

歴史は繰り返すようです。

補足

典型的な"professional class"のパワーカップル(妻のAnne-Marieはクリントン政権時に国務省に務め、ヒラリーとは近い関係)。庶民にとっては夢物語の"have it all"を本気で追求するところに、エリートが庶民とはかけ離れた思考をしていることが表れています(独善と強欲)。

www.huffingtonpost.com

www.theatlantic.com

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*1:強調は引用者。

*2:[引用者注]Liberal interventionist

*3:[引用者注]労働者階層?

*4:日本のリフレ派も、リフレ理論に懐疑的な人を「バカ」「頭が悪い」と見下す傾向があります。

*5:イギリスのEU離脱=イングランド国教会

*6:しばらく前に、日本の(一流とされる)ビジネススクールの教授の話を聞きましたが、自分たちを高く評価しない日本社会の悪口と、海外の一流大学と提携する自分たちの素晴らしさを興奮してしゃべり続けていました。「キリスト教を信仰する自分は他のバカと違って偉い」と確信して土着文化を破壊して回った人々もこうだったのだろうな、と感じました。