Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

法人企業統計~構造改革による構造的停滞

来年4月に予定されていた消費税率引き上げが延期される見通しになりました。そこで、アベノミクスの推移を財務省「法人企業統計」で確認します。*1

www.bloomberg.co.jp

経常利益は高水準にはあるものの、ピークアウトした感があります。一方、設備投資は増加基調にはあるものの、経常利益に比べると伸びの鈍さが目立ちます。

f:id:prof_nemuro:20160605233738g:plain

f:id:prof_nemuro:20160605233740g:plain

f:id:prof_nemuro:20160605233742g:plain

次に、人件費計と比べた経常利益と利益剰余金(いわゆる内部留保)を見てみます(追記:グラフを四半期単位から年度単位に差し替え)。*2

f:id:prof_nemuro:20160608012317g:plain

f:id:prof_nemuro:20160608012324g:plain

f:id:prof_nemuro:20160608012330g:plain

1997年の金融危機から続く「人件費抑制→利益増加→内部留保(ストック)増加」が、アベノミクスによって加速しています。

f:id:prof_nemuro:20160608012308g:plain

アベノミクスは企業利益は増やしたものの、相当部分が企業部門の金融資産積み上げに回ってしまい、設備投資増や給与増→家計消費増の好循環を始めることはできなかったことになります。

これはアベノミクスの失敗というよりも、1990年代からの「構造改革」、特に「小泉改革」によって企業の経営スタイルが大転換した結果と言えそうです。 

資本主義においては、利潤追求それ自身が無条件に正統化される。

その追求を制約する上位規範が存在する訳ではない。

それ故、資本主義においては、利潤原理(企業が[プラスの]利潤を最大化する行動) が根本規範となる。 

失われた〈20年〉

失われた〈20年〉

https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0222080/js/another01.html

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」

「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」

94年2月25日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」。大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため、泊まり込みで激しい議論を繰り広げた。論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と、「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった。経済界で「今井・宮内論争」と言われる。

「終身雇用を改めるなら経営者が責任をとって辞めたあとだ」。「企業共同体」論に立って主張する今井に日産自動車副社長の塙義一らが同調した。生産現場の和や技術伝承を重視する経営者らだった。

「これまで企業が社会に責任を負いすぎた。我々は効率よく富をつくることに徹すればいい」という宮内のドライな発言に今井が鼻白む場面もあった。

イギリスのエコノミストAndrew Smithersは、米英において、経営者の報酬を株価と連動させる「ボーナス・カルチャー」が、長期的視野に立った投資の減少と、短期的な支出削減のインセンティブとして働き、経済成長率を供給側・需要側の両面から引き下げていると主張しています。米英では巨額の役員報酬(→社外流出)/日本では内部留保という違いはあるものの、投資と人件費の抑制によって利益最大化を目指す企業の経営スタイルは共通しており、日本経済の供給側・需要側の両面からの構造的停滞要因として作用していると考えられます。

ケインズは『一般理論』で思想(idea)の力を強調していましたが、

I am sure that the power of vested interests is vastly exaggerated compared with the gradual encroachment of ideas. … it is ideas, not vested interests, which are dangerous for good or evil. 

日本も小室直樹のような浅薄な思想に基づいて「後進的な日本」を「正しい資本主義」に改造したら、「儲かっても従業員に分配する必要はない」という異様な思想(観念)が広がり、「企業は儲かるが経済は成長しない」ことになってしまいました。従業員への分配に重要な役割を果たしていた企業の共同体的カルチャーを、小室のような観念論者は日本経済の成長を妨げる「悪」としか認識できていなかったわけです。中国の大躍進政策において「米や麦を食べる雀を打倒すれば収穫量が増える」という短絡的思考に基づいて実行したら、害虫が大発生して収穫量が減少してしまったことと似ています。*3

f:id:prof_nemuro:20160606004653g:plain

アベノミクスがこの思想に基づいている以上、日本の再興は遠いでしょう。

国家戦略特区の正体  外資に売られる日本 (集英社新書)

国家戦略特区の正体 外資に売られる日本 (集英社新書)

経済のグローバル化の問題のひとつが、経済活動が国内で完結していれば可能だった「税制を通じた富の再分配」 という政治機能が働かなくなる点にある。

国にも、国民にもメリットがない。負担は国民と国民が支える国家へ、利益は企業へ。これが国家戦略特区の正体である。

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com 

totb.hatenablog.com

*1:金融業と保険業を除く。

*2:人件費計と経常利益は年度計、利益剰余金は年度末。

*3:小室は主流派ではなく異端ではあったものの、結果的には小室的な思想が勝利しています。