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MAKE JAPAN GREAT AGAIN

[雑感]「1940年体制」とメイツ星人

韓国は1997年の金融危機後、IMFが支援の条件とした構造改革を断行しました。

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1998年2月に誕生した金大中政権の課題は経済の立て直しであった。IMFの支援を受けながら、同政権は4つの柱からなる構造改革――企業の構造調整、金融改革、労働市場改革、公共部門改革――を実施した。改革を進めるに当たって、外資規制を大幅に緩和し、外資の力を最大限活用した。

その「成果」が自殺者の急増です。

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장하준はこの構造改革を「不幸への処方箋」と評しています。

www.theguardian.com

So, when things seem to be going so swimmingly, why are Koreans clamouring for big changes in the run-up to the general election next week? Because they are desperately unhappy.*1

The answer to the Korean puzzle can be found in the consequences of the economic reform implemented after the country's 1997 financial crisis. In the UK-US mould, the stock market was fully opened to foreign investors, putting the larger, listed companies under pressure from international shareholders, making them increase short-term profits by minimising investments.

韓国の不幸はIMFに強要されたものですが、日本は同じような処方箋(構造改革)に自発的に従っておかしくなってしまいました。

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ある時期から日本人自身がやみくもに舶来の経営手法を信奉して、「日本のやり方は時代遅れで最先端の米国型経営に移行するべきだ」ってなっちゃった。ご存じのようにその後、ソニー富士通も経営がおかしくなった。

どうして日本が自発的に「不幸への処方箋」に従ってしまったのかですが、与野党の政治家、学者、メディアなどの“改革派”に次のような認識が共通していたためと考えられます。*2

わが国は“官僚経済”の国だ。いや、社会主義経済の国といってもいい。金を上から下へと流しこみ、途中で政官権力が掬い上げる“流しそう麺”式の社会主義計画経済の性格がきわめて強いのである。

わが国の経済では、政府に関連したおカネにかかわる部分が異常に大きく、市場経済活動の成果は極めて小さい。*3

いわゆる「1940年体制」ですが、アメリカで学んできた意識高いにこのような傾向が強かったように思えます。このような人々は、

  • バブル崩壊後の日本経済の不調の原因は「社会主義的統制」にある。
  • 日本経済は市場原理を貫徹した「本来の資本主義」によって生き返る。

と本気で考えていたわけです。

多くの一般国民もこのような改革路線を支持していた一因は、「途中で政官権力が掬い上げ」ているカネを取り上げて国民に分配すれば、もっと豊かになれると錯覚していたことにあるでしょう。「政府を小さくすればその分国民が豊かになる」あるいは「統制を緩めれば日本経済が活性化する*4」という素朴(短絡的)な発想です。

1940年体制(増補版) ―さらば戦時経済

1940年体制(増補版) ―さらば戦時経済

封建的背骨に、社会主義的戦時統制経済を接木した経済を、1940年体制(あるいは昭和15年体制)と呼ぶ

家父長的官僚制による社会主義的統制! スーパー鵺としか喩えようもあるまい。

伝統主義の呪縛こそが、景気回復を遅らせ、あなたを失業させ、日本経済の底力を発揮させないままに放置しているのである。

小室は「資本主義における企業人の心得」を次のように説明していましたが、*5

武士は、生命を的に戦わなければならない。‥‥目的達成のためには、生命を以て責任を取らなければならない。

企業人もこれと同じである。企業の目的は利潤(profit)を最大にすることである。

そのために、コストをなるべく小さくしようとする。コストを最小にするのが目的である。 

コストには人件費も含まれるので、企業経営者がこの心得に従うと「人件費を最小にするのが目的」になります。1990年代後半(デフレ転落期)以降の企業行動は、経営者が「伝統主義の呪縛」を脱したことを示していますが、マクロ経済のパフォーマンスは小室の想定とは真逆です。「利潤を最大にするために人件費を最小にする」企業行動が、家計消費の低迷と財政赤字(→政府の緊縮志向)をもたらし、「日本経済の底力を発揮させ」ることを妨げています。

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歴史を振り返れば、国家社会主義ニューディールケインズ主義、社会的市場経済などには、「本来の資本主義」がもたらす格差や貧困などの負の側面に対処する意味がありました。

マネーの進化史 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

マネーの進化史 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

福祉国家は、イギリスが考案したものだと思われがちだ。しかも社会主義者か、少なくともリベラル派の発明だと思い込んでいる者が多い。だが実際には、国家の強制的な健康保険や老齢年金の制度を最初に導入したのは、イギリスではなくてドイツで、それから20年あまり経ってからイギリスがこの制度を取り入れた。しかも、左派が創造したものではなく、むしろその逆だった。

ビスマルクに対抗するリベラル派は驚いたのだが、ビスマルクは「これは国家社会主義的な思想だ。全体が無産階級を支えなければならない」と率直に公言した。

ヒットラーの社会革命―1933~39年のナチ・ドイツにおける階級とステイ

ヒットラーの社会革命―1933~39年のナチ・ドイツにおける階級とステイ

新しい中央管理官は修辞的な遺憾の意を示しながらこう言明した。「‥‥利潤追求は一般に全体の福利にたいする道徳的義務よりも強力なのである。これまで幾度も、国家の責任ある機関による多かれ少なかれ強力な介入が緊急に必要となったことがあったのである」。ゲーリンクは‥‥「利潤のことを考えるのではなく、強力な、自立した、国民的ドイツ経済のことを考えよ」と訴えた。

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

ケインズ理論の主たる帰結は、もちろん景気後退期における国家による投資であるが、それより目に付きにくいが構造に関わるものだけにより重要な帰結は、自国の労働者階級を豊かにすることが得策であるという考えを西側ブルジョワジーが受け入れた、ということである。経済発展期における労働者の賃金の持続的上昇は、消費の規則正しい上昇をもたらし、それが生産の総体を吸収する。‥‥第二次大戦後の西側諸国の経済発展の根源は、このことの自覚にある。

www.sankei.com

日本国民である以上、どんな職業に就いていようが、どんな地域に住んでいようが、一定のレベルの生活を得られるようにする。それが政治なんだ。そういうことが田中先生の若き血の叫びの内容だ。*6

暴力的な「本来の資本主義」を抑え込んでいた社会通念や国家権力に基づく規制を破壊すれば、ディケンズが描いた19世紀のイギリスのような、貧困と格差が蔓延する社会への逆戻りは必然です。国家権力を敵視するリベラル(左派)とネオリベ勢力の共闘の成果です。*7*8

帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」では、怪獣ムルチを封印していたメイツ星人を町の人々と警官が殺害した結果、ムルチが復活して大暴れします。

「怪獣を退治してくれよ」と叫ぶ人々に、郷秀樹は「勝手なことを言うな。怪獣をおびき出したのはあんたたちだ」と心の中で自己責任・自業自得論をつぶやきます。「古い自民党的」なものへの嫌悪感と怒りから、封印を解いてネオリベを召喚してしまった一般国民も自業自得なのでしょうか。*9

장하준によると、構造改革後の韓国社会は、韓国人が望んだものではないということですが(←当たり前)、

However, the Korean story shows that insecurity actually makes people less, not more, productive, and also desperately unhappy. Surely, that is not what they want

日本の若い世代も「これがあなたが望んだ世界そのものよ」と言われても困るでしょう。

DVD帰ってきたウルトラマン Vol.9

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Markets in the Name of Socialism: The Left-Wing Origins of Neoliberalism

Markets in the Name of Socialism: The Left-Wing Origins of Neoliberalism

totb.hatenablog.com

totb.hatenablog.com

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*1:強調は引用者、以下同。

*2:日本は“改革”によって自滅しつつあります。“改革派”に罪を償ってもらいたいものです。

*3:[引用者注]明らかな事実誤認です。

*4:「税率を下げると税収が増える」というラッファー曲線と同じ考え方。

*5:小室直樹の浅薄で能天気な思想には呆れるしかありません。机上の空論の秀才だったのでしょう。

*6:[引用者注]「それが政治」と考える政治家が減り、「貧しくなるのも自己責任」「貧しくなる自由がある」という観念に取って代わられたということでしょう。郵政選挙が決定的な転機だったように思われます。

*7:アラブの春では、“民主派”が欧米の助力によって(手先になって)強権的世俗政権を打倒したら、強権体制が封じ込めていた宗教過激派が跋扈することになりました。日本の構造改革は、古い自民党政治=強権的世俗政権、改革派=民主派、ネオリベ市場原理主義勢力=宗教原理主義過激派とするとよく理解できます。

*8:民衆の生活を守るための規制を破壊することを、ネオリベ勢力は「規制緩和」と呼びます。安倍政権は「岩盤規制」の破壊に熱心です。

*9:閻魔あい「人を呪わば穴二つ」