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[グラフ]金融危機と経営者の集団改宗

二つ前の記事の要約&補足になります。日本銀行「資金循環」と財務省「法人企業統計」から、日本経済停滞の根本原因である民間企業の資金余剰をグラフで確認します。

フローの資金過不足は、バブル期にマイナス拡大→バブル崩壊後は±1%に縮小→1998年度以降はプラスが定着、と推移しています。

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1985年度から累積します(縦軸の上下反転に注意)。

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過剰債務の解消(deleveragint)は「史上最長の景気拡大」が本格化した2003年頃に一段落しますが、その後は資産が増加に転じます。

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GDP比を見ると、バブル期に積みあがった過剰債務が解消したにもかかわらず、企業の資金余剰が止まらないことが分かります。

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マクロでの資金余剰は、個々の企業では自己資本比率の上昇となって表れます。

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人件費と利益剰余金の長期推移にも、石油危機と金融危機の二つの「危機」の影響がはっきりと表れています(縦軸は対数目盛)。

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金融危機の前後で、企業の行動が劇的に変化しています。1996年度と2015年度を比較すると、人件費計は-1.4%ですが、経常利益は2.0倍、年度末の利益剰余金は2.5倍です。

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賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

以前は①企業利潤が上昇後、

  • ②人件費を先導に、③企業純資産、④設備投資の3者がバランスよく上昇していたが、
  • 98年度以降、経験法則が崩れ、優先度が②純資産、③設備投資、④人件費の順になった

脇田はこれを「金融危機対応モード」と説明していますが、金融危機から20年近くが経過してもなおこの「モード」が続いていることは、金融危機の後遺症だけでは説明がつかないと考えられます。それに加えて、企業経営者に「資本主義の精神」あるいは「資本主義における企業人の心得」が浸透したこと、言い換えると「日本的経営」から「アメリカ的経営」への集団改宗が生じたことがあると考えた方がよさそうです。*1

企業の目的は利潤(profit)を最大にすることである。

そのために、コストをなるべく小さくしようとする。コストを最小にするのが目的である。  

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振り返ると、2000年代に入ってから、従業員の平均的な名目賃金が下がるデフレの最中でも、上場企業経営者の報酬水準は趨勢的に上がり続けてきた。

まして、他社の経営者の報酬と自分の報酬を比較し始めると、経営者連の金銭欲求はあらためて強化されよう。もともと「肉食」の男(女)の前に、同性のライバルが登場するようなものだ。

経営者への報酬総額がいきなり米国の水準には届かなくとも、競争的にせり上がる事態は十分想定できる。*2

イギリスのエコノミストAndrew Smithersは、役員報酬を株価と連動させることが、長期投資よりも目先の利益を優先させるインセンティブとして働き(ボーナス・カルチャー)、生産性上昇率を引き下げると主張しています。Smitersの分析が正しいとすると、日本経済は今後も停滞を続けることになるでしょう。

The Road to Recovery: How and Why Economic Policy Must Change

The Road to Recovery: How and Why Economic Policy Must Change

totb.hatenablog.com

おまけ①

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おまけ②

プロ経営者は気楽な稼業と来たもんだ。

www.sankei.com

LIXILグループの社長を退任する藤森氏は、さっそく6月に武田薬品工業社外取締役に就くことが決まった。*3

「原田氏も、そのうちどこかのトップにスカウトされるのでは」(大手流通幹部)との見方は多い。

退任会見の最後、原田氏は「みなさん、(就職先として)いいところがあったら是非紹介してください」と、記者団に言い残し会場を後にした。

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*1:自分たちを劣っていると見なす集団が、伝統を捨てて「先進文明」を受容するようなもの。たとえば明治維新の洋化政策やゲルマン人キリスト教改宗。改宗した人々は、優越感と自己正当化の心理から攻撃的になりがちです。日本の場合、劣った連中=一般労働者が攻撃対象です。リフレ派が「バカ/頭が悪い」などと異様に攻撃的なのも、同じ心理メカニズムによるものでしょう。

*2:[引用者注]経営者が内部昇格によって選ばれる場合、経営者の報酬は従業員給与(昔の自分)が基準になりますが、「プロ経営者」の人材プールから選ばれる場合は、経営者間の比較によって決まります(傾向)。そのため、従業員給与からかけ離れて「競争的にせり上がる」ことになるわけです。

*3:強調は引用者。