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Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

雇用問題・企業の内部留保・アベノミクスの整理

雇用問題において、

の意見対立をよく目にします。

雇用環境が20年前に比べて著しく悪化していることは明らかなので、改善を訴えることには大きな意義がありますが、各論に突っ込まれる要素があるので、総論の「雇用環境改善」の議論が進まないのが残念なことです。

そこで、これらについて整理してみます。

現時点において、アベノミクス批判があまり適当ではないと考えられるのは、良くも悪くも実体経済には大した効果を及ぼしていないからです。

アベノミクスの一番の売りは異次元の金融緩和、すなわちマネタリーベースの大量供給とそれに続く日銀当座預金の一部へのマイナス金利適用です。

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これらが市場参加者のマインドを転換させて円安・株高を実現させたことは間違いないのですが、2014年4月の消費税率引き上げで家計に冷や水を浴びせたこともあって、国内の経済活動は低調なままです。訪日外国人の激増が唯一(?)の顕著な効果です。

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business.nikkeibp.co.jp

マイナス金利については、今年度で400億円程度の収益圧迫要因になると公表しています。マクロ的に考えると、あのタイミングでの導入は、将来に対する不安を明らかに惹起してしまったように感じます。実際に、マイナス金利を受けて設備投資しようという経営者に会ったことはありません。

雇用の非正規化や賃金抑制は、アベノミクス前からのトレンドです。*1

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次に、企業の人件費抑制と内部留保の増加について整理します。

ストックとしての内部留保は、一般的には利益剰余金のことを指します。*2

人件費(フロー)と利益剰余金(ストック)の関係は、1997-98年の金融危機を境に非連続的に変化しています。

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利益剰余金の増加≒投資その他の資産の株式です。

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これと対応するのが対外直接投資の急増です。

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つまり、人件費を抑制して増やした内部留保は、現預金ではなく主に海外M&Aを含む株式投資に化けていることになります。

企業の資金余剰の定着について、いわゆるリフレ派は「デフレ原因説」を唱えていましたが、因果関係は逆で、企業が資金余剰にするために人件費を抑制したことが、内需を弱めてデフレを招いたと考えるのが妥当です。*3

下は内閣府「経済の好循環実現検討専門チーム会議」中間報告(2013年11月22日)からの抜粋ですが、的確な分析と言えるでしょう。

なぜ、日本だけがデフレという悪循環に陥ったのか。

鍵は名目の賃金水準の動向にある。……日本では、1990 年代末頃から名目賃金は低下傾向にあり、デフレ・ストッパーの役割をもつ名目賃金の「下方硬直性」が失われた。このことがデフレの大きな要因になってきたと考えられる。

この間、正規雇用から非正規雇用への転換が大きく進んだことも、名目賃金の低下を更に加速化した要因となった。  

……日本経済は厳しい国際競争にさらされ、加えて 90 年代末には金融危機が起こった。

こうした中で、日本企業は2つのことを追求してきた。

第1に、国際競争力の維持のため、賃金の抑制も含めたコストカットの実施。

第2に、内部留保の蓄積。バブル崩壊後、過剰雇用や過剰債務を抱えていた日本企業は、1990 年代後半の金融危機を契機に、その後 2000 年代半ばにかけて、内部留保を蓄積して資本を厚くするとともに、債務を圧縮し、財務体質を強化。  

各企業から見ればコスト削減という極めて合理的な行動が、消費や投資の減少や人的資本蓄積の停滞といった「合成の誤謬」を引き起こし、マクロ経済全体からみるとデフレという悪循環を引き起こしてきた。

問題は、財務体質強化が完了した2000年代前半から、むしろ内部留保と対外投資が加速していることです。下は1953年のGeneral Motorsのウィルソン会長の有名な発言ですが、

… what was good for our country was good for General Motors, and vice versa. The difference did not exist. Our company is too big. It goes with the welfare of the country. Our contribution to the nation is considerable.

企業経営者に、下のような考えがあったことを示しています。

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

ケインズ理論の主たる帰結は、もちろん景気後退期における国家による投資であるが、それより目に付きにくいが構造に関わるものだけにより重要な帰結は、自国の労働者階級を豊かにすることが得策であるという考えを西側ブルジョワジーが受け入れた、ということである。経済発展期における労働者の賃金の持続的上昇は、消費の規則正しい上昇をもたらし、それが生産の総体を吸収する。‥‥第二次大戦後の西側諸国の経済発展の根源は、このことの自覚にある。

しかし、グローバル経営ではこのような考えが180度転換します。グローバル化とは、自国企業が外国企業のように振る舞うようになることですが、外国企業にとっては、進出先の労働者は可能な限り搾取する対象に過ぎません。オランダが東インド会社の時代からインドネシア人を搾取の対象にしたようなものですが、日本人は日本企業によって搾取の対象にされているところが違いです。

www.j-cast.com

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「そのあげく先進国で支配的になったのは経済的合理性。利益率でものを考えるような世界です」

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)

イギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)

わが国の工業化時代が、「禁欲・勤勉」の倫理を象徴する校庭の二宮金次郎の石像とともに展開したことは、ある程度、事実かもしれない。しかし、「経済合理主義者」ばかりの社会が、長期的にはひどく脆弱であることも、確実である。

アベノミクスに異議を申し立てるのであれば、日本を「世界で一番企業が活躍しやすい国」にすることを目指していることでしょう。これは日本国民の生活水準を高めることよりも、外国企業の儲けを増やすことを経済政策の目標にしていることを意味します。

国には税収がなく、国民に対して富の再分配がおこなわれることもない。このようなグローバル経済がもたらすメリットは、どこにあるのだろうか。

国にも、国民にもメリットがない。負担は国民と国民が支える国家へ、利益は企業へ。これが国家戦略特区の正体である。

中国系企業が優遇措置を利用して土地を購入し、日本全土から人材・物資・資本を集中させようと考えている中枢部を彼らに占領されるという皮肉な事態は、決して非現実的な話ではない。

大日本帝国は台湾や朝鮮に物的・人的投資を行い、それが今日の両国の発展の礎になりましたが、日本政府は雇用の非正規化を促進するとともに、公共投資をピーク時から半減させるなど、物的・人的投資を削減してきました。大日本帝国よりもインドネシアを搾取したオランダを見習っているようです。

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企業と政府による自国民窮乏化政策が20年近くも続いている一因は、日本人の国民性ではないかという気もします。よく、「日本人はシステムや戦略の欠陥を現場の頑張りでカバーしようとする傾向が強い」と言われます。我慢が美徳なので、苦境を訴えたりシステムの欠陥を指摘する人は、「我慢が足りない」失格者としてバッシング・排除の対象にされてしまうわけです。

振り返ってみれば、ショック・ドクトリンが日本経済の停滞の原因であることは明らかに思えます。ショックに対して馬鹿の一つ覚えのように「仕方がない」「身を削る改革」とひたすら耐えるだけの人々よりも、それに付け込んで新自由主義的「改革」を進めた人々が何枚も上手だったのでしょう。

『ショック・ドクトリン 上・下 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』moreinfo

ショック・ドクトリンとは、「惨事便乗型資本主義=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」のこと。アメリカ政府とグローバル企業は、戦争、津波やハリケーンなどの自然災害、政変などの危機につけこんで、あるいはそれを意識的に招いて、人びとがショックと茫然自失から覚める前に過激な経済改革を強行する……。

不機嫌な時代―JAPAN2020

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それでも大半の人々はきわめて現実的で、この状況を「しようがない」といって受け入れていた。なにしろ、そうするしか手がなかったのである。

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*1:下のグラフと同期間の雇用者数の増加のうち、医療・福祉が46%を占める。

*2:財務省ファイナンス』2014年7月号の「法人企業統計からみる日本企業の内部留保(利益剰余金)と利益配分」などを参照。

*3:リフレ派がおとなしくなった代わりに、消費税元凶説を唱える人々の声が大きくなっているようです。低迷する家計消費に消費税率引き上げで追い打ちをかける逆噴射政策が論外であることは確かなのですが、消費税率引き上げ凍結&大規模財政出動で日本経済が停滞を脱するというのは楽観的に過ぎるでしょう。「盗人に追い銭」になる可能性大です。