Think outside the box

MAKE JAPAN GREAT AGAIN

緊縮病とシルバーデモクラシー

政府の緊縮志向に批判的な人々にとっての不愉快な真実は、世論の大勢が緊縮に賛成であることです。歳出削減を叫んだ小泉(国政)、橋下(大阪)、小池(東京)への熱狂的支持を見れば、国民の多くに「緊縮=改革=正義」という観念が染みついていることがわかります。

下は2006年6月22日の経済財政諮問会議における小泉総理大臣(当時)の発言ですが、東京オリンピック施設整備を巡る状況などからは、「歳出削減をやめてほしいという声が出てくる」気配は感じられません。

プライマリー・バランスを回復させる場合には、今までのやり方だったら、公共事業を増やさないと景気は回復してこない。それが、公共事業をマイナスにしても税収が上がってきたでしょう。長期的な目標を大事にしつつ、現実の対応はいろいろある。公共事業をマイナスにしても、消費税を上げなくても、歳出削減に取り組んで規制改革をやってきている。政府にも自民党にも、こういう発想は今までなかった。そこが大事だ。

これから情勢が変わり得るのは、歳出削減をどんどん切り詰めていけば、やめてほしいという声が出てくる。増税してもいいから必要な施策をやってくれという状況になってくるまで、歳出を徹底的にカットしなくてはいけない。そうすると消費税の増税幅も小さくなってくる。

f:id:prof_nemuro:20161028165603g:plain

公共投資が本格的に削減され始めたのは1997-98年の金融危機後ですが、同時期から勤労世代の20~59歳人口が減少に転じています。2016年にはピークの1999年から13%減少しています。

f:id:prof_nemuro:20161028165604g:plain

この人口動態が緊縮政策支持と関係しているように思えます。勤労世代人口が減少したために、老人の思想・観念・ideaが世論を左右するようになってきたのではないか、ということです。いわゆるシルバー・デモクラシーです。*1

一般的に老人はケチになる傾向にあります。特に、マンション改修のような「自分の死後のために金を払う」ことに強く抵抗するようです。この発想を公共政策に拡大すると、ほとんどのインフラ投資が「無駄」になります。

東京オリンピックでは「これを機会に数十年間残るレガシーを整備しよう」とされていますが、これは老人にとっては巨大な「無駄」に過ぎないわけです。

このような老人の声に従うことは、マンションが改修されずに老朽化していくように、新規インフラ整備が進まず、既存インフラも老朽化していくことを意味します。これが本当の「もったいない」なのですが。

この見方が正しいとすると絶望的にならざるを得ないのは、老人の声が相対的にますます強くなっていくことです。国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2040年には60歳以上人口が20~59歳人口を上回ると予測されています。

f:id:prof_nemuro:20161028165606g:plain

シルバーデモクラシーと言うと、老人が社会保障給付など自分たちへの歳出を優先させることがイメージされるようですが、日本で進行しているのは「もったいない」精神が需要不足と資本ストックの老朽化を招いていることです。*2

無料配布のポケットティッシュを集めたりおんぼろな服を着るような倹約生活をしていた老人が、死後に多額の金融資産を残していた、という話があります。倹約が目的化してしまったわけですが、日本経済はその拡大版のようなものです。

一時はJapan as number oneと言われた国が、こんなばかばかしいことで衰退していくのが残念です。

jp.reuters.com

日本は、富裕層の高齢化が消費低迷につながっていると見ている。相続などで、消費性向の高い若年層に資金がシフトすれば消費が活発化しようが、高齢化により「老老相続」が増加している。こうしたなか、質素な富裕高齢者が多い点も経済活動の抑制要因になっていると感じている。

緊縮策という病:「危険な思想」の歴史

緊縮策という病:「危険な思想」の歴史

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

シルバー・デモクラシー―高齢社会の政治学 (有斐閣新書)

シルバー・デモクラシー―高齢社会の政治学 (有斐閣新書)

totb.hatenablog.com

*1:時代精神」がチャレンジを嫌い、安全志向で逃げ切りを狙う老人的なものになってきたということ。

*2:財政出動のために国債残高が増加したとしても、先に死ぬ老人が気にする必要はないのですが。