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日本版「大躍進政策」進行中~日本版スチュワードシップ・コード

ひとつ前の記事では、企業に対する投資家の影響力を強める「改革」が、異常な人件費抑制を招いていることを指摘しました。

totb.hatenablog.com

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この記事ではそれに補足します。グラフは財務省「法人企業統計調査」から資本金十億円以上の全産業(金融業、保険業を除く)のデータから作成しています。

1997-98年の金融危機以降、日本企業の自己資本比率は急上昇しています。企業が人件費抑制・内部留保積み増しに傾斜するようになったことの反映です。

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賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

賃上げはなぜ必要か: 日本経済の誤謬 (筑摩選書)

以前は①企業利潤が上昇後、

  • ②人件費を先導に、③企業純資産、④設備投資の3者がバランスよく上昇していたが、
  • 98年度以降、経験法則が崩れ、優先度が②純資産、③設備投資、④人件費の順になった

Deleveragingと配当性向の向上の結果、株主への配当金が銀行等への支払利息を大きく上回るようになっています。企業に対する銀行の影響力が低下し、代わりに株主(特に外国人)の影響力が増大したことを意味します。

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アベノミクス第三の矢では、株主である機関投資家の影響力増大が、企業と日本経済の成長につながると想定されています。下は2016年9月21日にニューヨークで金融関係者と対話した安倍総理大臣の発言の一部です。

スチュワードシップ・コードも重要です。これは、コーポレートガバナンスと、一枚のコインの裏表の関係にあります。機関投資家は、責任をもって資金を管理、運用しなければなりません。

それは何のためでしょう。それは、企業を成長させるためです。日本という国が成長し、より力強くなるためです。

企業が株主に報いている指標とされるのが、株主資本利益率ROE)や株主資本配当率(=配当金/株主資本)です。経済産業省がまとめた「伊藤レポート*1」では

グローバルな投資家との対話では、8%を上回るROE を最低ラインとし、より高い水準を目指すべき。

とされています。

1970年代から一貫して低下し、1990年代には2%弱で推移した純資産配当率(≒株主資本配当率)は21世紀に入ってから急上昇し、2015年度には約5%に達しています。

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その結果、借入利子率は低下しているにもかかわらず、加重平均した「コスト」は逆に上昇しています。グローバルな投資家を満足させるための株主還元が、日本銀行の金融緩和を無効にする強力な引き締め圧力になっているわけです。

株主の影響力が増した一方で賃金抑制が続く日本経済は、

  • 領主が「年貢引き上げは生産性向上(→増産)につながる」と考えて引き上げを実施する。
  • 地主は「期待されるほどの増産は無理」と考えて小作の取り分を減らして年貢に回す。
  • 小作は貧困に喘ぐことになる。

と似た状況に陥っています(領主-株主、地主-企業、小作-労働者)。この間、政府が労働者派遣法を改正して企業の労働者からの搾取をアシストしたことも重要です。

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株主の要求水準が高すぎることが労働者を苦しめているのですが、政府は日本国民よりも外国人株主様のご機嫌取りにしか関心がないようです。*2

www.sankei.com

日本政府が首相の経済政策、「アベノミクス」のウォール街売り込みに躍起となっている。官邸からは定期的に担当者が「ご説明」にやってくるそうだ。

日本政府が経世済民を目標としていないことは明らかに思えます。

dictionary.goo.ne.jp

中国の大躍進政策では、「農作物を食い荒らす雀を退治すれば増産につながる」と考えて実行したところ、害虫が大発生して逆効果になってしまいましたが、日本政府が推し進める「スチュワードシップ・コード/コーポレートガバナンス」も同じようなものと言えます。

機関投資家は、責任をもって資金を管理、運用しなければなりません」という「正論」が日本経済を弱体化させているわけですが、これが誰かの書いたシナリオだとすれば、実に見事な出来栄えと言わざるを得ません。*3*4

totb.hatenablog.com

ゼイリブ 通常版 [Blu-ray]

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下の書籍でも同様の分析がされています。参考にどうぞ。

デフレの真犯人 ―脱ROE〔株主資本利益率〕革命で甦る日本

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ROEが奪う競争力 ―「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す

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まだ「ファイナンス理論」を使いますか?―MBA依存症が企業価値を壊す

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日本経済を壊す会計の呪縛 (新潮新書)

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*1:「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト「最終報告書」

*2:高すぎる要求水準が「脱落者」を生み出す構図は、非婚化(→少子化)と同じです。

*3:「思想」を浸透させて現地人自ら伝統社会を破壊するように仕向ける手法はキリスト教と共通します。

*4:日本を崩壊させる三本の矢は、①株主重視経営(株主利益最大化)、②財政再建プライマリーバランス黒字化)、③女の社会進出(労働力化)です。第四の矢として外国人労働者(移民)を付け加えてもよさそうですが、これらはすべて安倍政権が強力に推し進めていることでもあります。