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[雑感]トランプ当選・トッド・クルーグマン

朝日新聞エマニュエル・トッドへのインタビューとクルーグマンのNYTのコラムが掲載されていました。

www.asahi.com

自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした、と人々は理解し、その二つを問題にする候補を選んだ。有権者は理にかなったふるまいをしたのです。

奇妙なのはみんなが驚いていること。本当の疑問は「上流階級やメディア、大学人には、なぜ現実が見えていなかったのか」です。

www.asahi.com

http://www.nytimes.com/2016/11/11/opinion/thoughts-for-the-horrified.html

トッドが「奇妙なのはみんなが驚いていること」と言うように、トッドの分析は斬新でもなんでもなく、当たり前のことです。米欧の大衆の反乱の原因が、リベラル(社会面)とネオリベラル(経済面)のエリート連合軍が進めるモノ・カネ・ヒトの自由な移動=グローバリゼーションだったことは、イデオロギーで正気を失っていない人には自明でした。*1

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

toyokeizai.net

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昨年には南アフリカ貧困層の黒人が反移民暴動を起こしましたが、これも米欧の大衆反乱と同じ構図です。南アフリカアパルトヘイト廃止後、有望な新興国としてグローバリゼーションに組み込まれ、経済は発展しましたが、その恩恵は国内外のエリートに集中し、ジニ係数アパルトヘイト時代よりも高まる有様です。エリートは成功の証としてgated communityに住み、貧困層を低賃金で働かせます。そこに周辺国から不法移民が流入したため、貧困層の黒人の怒りが爆発したわけです(貧困黒人がレイシストに)。

www.bbc.com

トッドは10年以上前から「グローバリゼーションは経済学的に正しい」と説くクルーグマンたち経済学者を批判していましたが、最近の状況は、経済学者たちよりも人類学・社会学的観点を重視するトッドの見方が正しかったことを証明しているようです。

クルーグマンたち自称良心的リベラルが見落としていたのは、リベラリズムは社会面では移民の大量流入、経済面では賃金の「底辺への競争」によって自国の庶民の生活基盤を破壊することです*3自称良心的リベラルは、個々の善の積み重ねが全体では悪になり得るという思考ができない単純脳の持ち主ということです。「農作物を食い荒らす雀を退治すれば生産量が増える」と考えて雀を大量に駆除したら害虫が大発生して逆効果になった大躍進政策を笑えません。*4

クルーグマンは未だに、経済学的正しさと政治的正しさが庶民の生活を破壊することを理解できていないようですが。

Listen, Liberal: Or, What Ever Happened to the Party of the People?

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この連載はお勧めです。

www.asahi.com

togetter.com

自由貿易という幻想 〔リストとケインズから「保護貿易」を再考する〕

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グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)

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totb.hatenablog.com

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おまけ

トッドが日本のメジャーなメディアに登場する機会が増えたため、批判も増えているようですが、分析手法を批判するのであれば、少なくとも下の著作を読んでからにするべきでしょう。

家族システムの起源(上) 〔I ユーラシア〕〔2分冊〕

家族システムの起源(上) 〔I ユーラシア〕〔2分冊〕

家族システムの起源 (下) 〔I ユーラシア〕〔2分冊〕

家族システムの起源 (下) 〔I ユーラシア〕〔2分冊〕

新ヨーロッパ大全〈1〉

新ヨーロッパ大全〈1〉

新ヨーロッパ大全〈2〉

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最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕

*1:リベラルエリートは移民に味方し、自国の大衆に敵対しています。エリートと移民は「国境や国籍にこだわらない」グローバリゼーションの体現者であり、大衆はその正反対の土着民です。グローバリゼーションを価値基準とすれば、エリートが大衆よりも同志の移民にシンパシーを感じるのは不思議ではありません。

*2:1人当たりGDP最低賃金労働の何時間分に相当するかを表す。1950~60年代は約3000時間だったが、1980年代から増加傾向が強まり、近年では約8000時間となっている。

*3:トランプが否定したポリティカル・コレクトネス(political correctness)は、多数派を少数派に従わせることを正当化する論理とも言えます。社会面における少数派は移民などのマイノリティ、経済面における少数派は高学歴知的専門職です。ポリコレは移民増加と経済格差拡大を正当化する論理ということです。

*4:経済学的には、部分均衡は理解できでも一般均衡が理解できない人ということでしょうか。